2016 Fiscal Year Research-status Report
現代ブータンの多元的宗教空間における仏教と屠畜に関する政治人類学的研究
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26760015
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
宮本 万里 慶應義塾大学, 商学部(日吉), 講師 (60570984)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 宗教 / 屠畜 / 放生実践 / 牛の流通 / 肉食 / ブータン / 南アジア地域研究 / 政治人類学 |
Outline of Annual Research Achievements |
世俗主義を掲げるインドにおいて、現BJP政権の政策理念はヒンドゥー教を国民的価値の源泉として推進するヒンドゥー・ナショナリズムと親和性が高く、その「異教徒」排他的な性格がしばしば国内のイスラーム教徒や仏教徒等との軋轢を生み出してきた。特に近年は、インドの多くの州においてヒンドゥー教で神聖視される牛の屠殺や牛肉の摂取を禁じる法律が改めて導入あるいは強化されるなどしており、インドとその周辺国の屠畜場運営や家畜及び肉の流通に大きな影響を与えつつある。ブータンの南東部に広がる北東インド諸州ではイスラーム教徒やキリスト教徒がマジョリティを占める地域も多く、従来BJPの影響が少ないと言われ、各州が独自の文化や社会的背景に応じた政策を採用してきた。しかし、近年の牛をめぐる政治はこれらの地域における宗教実践や食習慣及び生業にも大きな変容を迫りつつある。 平成28年度の現地調査では北東諸州のうちブータンと国境を接するアッサム州とその南のメガラヤ州における宗教実践と家畜の流通、肉市場の変化について聞き取り調査を実施した。そこでは特にイスラームの宗教儀礼における肉食と屠畜、及びキリスト教徒がマジョリティを占める地域における屠畜と精肉市場のありようについて調査を行い、ブータンやヒマラヤの仏教社会で生起している屠畜や肉食に関する変化を南アジア全体のより広い政治及び宗教の文脈の中に位置付けつつ、比較考察するための参照点を得ることができた。 その他の成果として、今年度はブータンにおける宗教世界の変容を政治の民主化や王権との関わりの中で論じた論考を英文論集等で発表した他、ブータンの牧畜社会の変容を民間の放生実践と家畜の流通経路の変化から論じた論考を国際学会で発表している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度の予定であったインド北東部での調査が可能となり、全体として計画通りに進行している。ブータン国内各地の宗教施設の調査に関しては予想以上に困難な点もあり、平成29年度に補足調査を行う予定である。所属変更により研究拠点の移動があったため海外調査が可能となる期間が限定されたが、渡航回数は概ね予定通りとなっている。 これまでのところ、自身の現在の研究テーマに部分的に関連した共同研究の立ち上げが複数あったことで、宗教変化と牧畜及び屠畜の両面から当該研究テーマに深く迫ることが可能となっており、研究の進展に貢献している。また、南アジア域内での地域・国家間比較が可能となったことで、ブータンにとどまらずより広い文脈で当該研究テーマを分析することができている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も引き続き、ブータンとインドにおける現地での聞き取り調査と関連資料収集・分析をつうじて研究を進める予定である。平成29年度は最終年度となることもあり、データの収集とともに、研究成果のとりまとめと発表に関してより具体的な計画が必要となるだろう。また、本研究課題の実施中にブータンの周辺地域における政治と宗教文化状況の変化が明らかとなってきているため、それらがブータン社会の文化や宗教と政治経済にもたらす影響について、より一層関連づけて考察することができれば、今後の研究のさらなる発展にもつながると考えている。
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Causes of Carryover |
平成28年度の出張旅費の一部が、会計書類の提出時期の関係により会計上は平成29年度の支出となったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28度分の出張旅費の一部として支出される予定である。
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