2014 Fiscal Year Research-status Report
観光政策に対するロンドンオリンピックの「レガシー」(遺産)研究
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26760022
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
小澤 考人 東海大学, 観光学部, 講師 (50631800)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | オリンピック / レガシー / 観光政策 / 集客都市 / ロンドン東部再開発 / 社会的課題の解決 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年の東京オリンピック開催を見すえ、わが国の観光政策に何ができるかという点が重要な課題となっている。本研究では、先行モデルとしての2012年ロンドン五輪を対象とし、そこで注目された「レガシー」研究の視点から、オリンピック開催が観光政策に対してどのような意義やレガシーを残したのかという点について、①開催地域へのレガシーの評価、および②観光政策への意義を明らかにし、それにより2020年の東京五輪開催に向けた観光政策・研究に寄与することをねらいとする。以下は、講演・論文等による初年度の研究実績の主旨である。 第一に、レガシー概念の再検討である。19世紀末に誕生した近代五輪がオリンピズムや国威発揚の性格を担う一方、レガシー概念は商業主義や環境問題への対応を介し、21世紀グローバル世界に適応した現代型オリンピックの正当化の論理という側面をもつ点について考察・報告した。 第二に、五輪開催地のストラトフォード地区の現地調査を行い、そこで浮上したロンドン東部再開発エリアの実態をもとに「集客都市」の観点から考察を進めた。1980年代のドックランド再開発から現在に至るロンドン東部再開発の文脈をふまえるとき、五輪開催のレガシーとして、それまで労働者・移民の閉鎖的コミュニティがあった地域の一角に「居住・ビジネス・集客」の三要素をあわせもつ開放的な都市空間が誕生した点、またそれに観光というファクターが寄与することの意義が浮かび上がる。 第三に、2020年開催の東京五輪の位置づけについて考察と報告を行った。しばしば高度成長期の1964年大会に対し、2020年は成熟社会の五輪とされ、ハードからソフトへという図式が付与されるが、ロンドン五輪の分析をふまえ、ハード・ソフト両面の効果をもつ集客都市の観点から「社会的課題の解決」のための五輪開催へと構想をリアレンジしていく可能性について考察と報告を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究の目的」に照らして、現時点において、おおむね順調に進展しているといえる。その理由は、次のとおりである。 本研究は上記のとおり、レガシー研究の観点から、①ロンドン五輪開催地域へのレガシーの評価、および②観光政策への意義を明らかにし、それにより2020年の東京五輪開催に向けた観光政策・研究に寄与することをねらいとしている。その際、(a)レガシー研究の追跡・探究をつうじて「レガシー」概念の再検討を行うこと、ならびに(b)ロンドン五輪開催地・ストラトフォード地区の現地調査を行い、これをレガシーの観点から評価すること、という作業プロセスが前提となるが、この二点については前述のとおり、基本的な研究とそれをふまえた研究成果の報告をすでに実施している。 また本研究の最終的な目標として、ロンドン五輪をめぐる分析・考察を介して、2020年東京五輪の開催に向けた観光政策への問題提起をねらいとしているが、この点についても(集客都市の観点から「社会的課題の解決」のためのオリンピックを構想していく、というように)すでに一定の方向性を導き出し、提示していると評価できる。以上のように、初年度におけるロンドン東部・ストラトフォード地区の現地調査をはじめとして、一定の時間を要する考察と展望、それをふまえた研究成果の報告をこれまでに実施できていることから、おおむね順調に進捗していると自己評価した。 他方、2012年ロンドン五輪の開催について、とりわけ2011年から2015年現在にかけて、イギリスの管轄省庁(DCMSおよびVisit Britainなど)から観光政策の文書が公刊されており、イギリスの文脈でロンドン五輪の開催が具体的にどのように観光政策に対してインパクトを与えてきたか、という点についてはいまだ分析途上であり、必要な作業が残されている。それゆえ「おおむね順調」という自己評価に落ち着いた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究課題として、次のような推進方策を指摘できる。 第一に、2011年から2015年現在にかけてのイギリスの管轄省庁の観光政策文書について、ロンドン五輪開催のレガシーという観点からその意義を整理する。この作業は、すでに先駆的研究を行っている研究者との協力・連携を介して効率的に進めることが可能であるが、2015年度は五輪開催3年後のレガシー総括文書も新たに刊行されることから、この点も含めて分析対象とすることが求められる。 第二に、新たに生じた課題として、「集客都市」および「メガイベント(のレガシー)」について、既存の研究成果を検討していく課題が挙げられる。とくに今回、キーワードの一つとして重視している「集客都市」の概念については、一部の先駆的成果(橋爪[2002])を除きこれまで十分な研究がなされておらず、「クリエイティヴ・シティ」や「スマートシティ/ベニュー」などの関連概念とともに一定の整理を行う必要がある。 第三に、初年度に現地調査を実施したロンドン五輪の開催跡地・ストラトフォード地区について、追跡調査を行う必要がある。すでに2014年に公式オープンしたクイーンエリザベス・オリンピックパーク、また周辺のスポーツ競技場を再利用したイベント施設、および選手村跡の高層建築による集合住宅のみならず、2015年オープン予定のロンドン版シリコンバレーと呼ばれるITビジネスの拠点「iCITY」など、「居住・ビジネス・集客」の三要素をあわせもつ「集客都市」の現在進行形について、新たに報告・評価する課題が生じている。ヒヤリング・インタビューなどの補足調査とともに、2015年度8月に現地調査を予定している。 以上をふまえて、学会報告や論文執筆による成果報告と並行しつつ、あわせて研究報告書(『観光政策に対するロンドン五輪のレガシー』(仮題))としての取りまとめと公刊を年度末に予定している。
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