2016 Fiscal Year Annual Research Report
Historic development of the Mousike to Augustine's "De musica"
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26770008
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
小川 彩子 学習院大学, 文学部, 講師 (10726582)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 哲学 / 古代ギリシア哲学 / 音楽 / 美学 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度までの3年間において、古典ギリシア語の「ムーシケー」及びラテン語のmusicaに関する語源研究を行ってきた。というのも、古典ギリシア語の「ムーシケー」とは、詩に始まり音楽、舞踊、天文学など、様々な学問分野をも包含する概念であったが、その後、ローマ・ラテン文化に拠点が移行しmusicaというラテン語に取って代わられるとともに、その内容は明らかに変容していくことになるからである。ラテン語のmusicaもまた、アウグスティヌス初期の作品においてそうであるように、最初は、韻律をともなう詩作や、音を楽しむ音楽を指し示す言葉として使用されたが、他方、天文学や数的関係を示す数学的な学問にまで、その呼称は用いられた。しかしながら、ある時を境に、musicaの指し示す内容はきわめて音に焦点を絞ったものとなっていく傾向を示すのである。 これは、いかなる原因によるものであろうか。一つの推測としては、キリスト教の普及とともに歌による表現が重視されたということ、また逆に身体的な表現としての舞踊等が消極的に理解されるようになったということが挙げられるだろう。確かに、キリスト教の普及は中世世界においてまさに中心たる動きである。しかしながら、musicaおよび「ムーシケー」がキリスト教という流れのみに翻弄されて、意味を変容させていったのだろうか。 以上の点に鑑みつつ、「ムーシケー」およびmusicaの語源にさかのぼって検証を進めた結果、古典ギリシア語の「ムーシケー」は、そもそも「神」との関わりが濃厚な概念であり、むしろ、「神の言葉を伝えるもの」こそが「ムーシケー」と呼ばれてきたということが、最終年度に行った、プラトンの『パイドン』『イオン』『国家』等の対話篇の読解によって明らかとなった。そして、むしろ「神の言葉を伝えるもの」、その手段が、時代によって変容していったのだと結論付けることに至った。
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