2015 Fiscal Year Research-status Report
日本イスラム教団の布教活動とその日本イスラーム受容史における位置づけ
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26770027
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Research Institution | Kobe City University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
小布施 祈恵子 神戸市外国語大学, 外国学研究所, 客員研究員 (90719270)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | イスラーム / 布教 / 日本文化 / 土着化 / 改宗 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度はまず、前年度の調査結果にもとづいて教団の活動の特徴を分析し、同教団の活動は日本人によるイスラーム土着化の試みではなく、むしろ「新宗教」として理解できるのではないかとの指摘を行った(国際宗教史学会世界大会、平成27年8月、於ドイツ・エアフルト)。特徴として指摘したのは、1)教団設立者でありメンバーから「大先生」と呼ばれた二木のカリスマ指導者としての存在、2)二木が信者に教えを説くだけでなく信者を「癒す」(ヒーラーとしての)役割を担っていたこと、3)ムスリムとしてより日本イスラム教団への帰属意識が強調されていたこと、4)集団入信式など、大規模な儀式が重要視されていたこと、5)基本的な教えはイスラームに即しているものの、その解釈や実践方法が伝統的なイスラームとは異なり、仏教など他の宗教の要素を取り入れていること、の5つである。 国内のムスリム・コミュニティにおけるイスラームの布教活動に関する調査においては、イスラームの土着化に向けて意欲的な活動を行っている関東在住の日本人ムスリムの活動を重点的に調査した。この日本人ムスリムは自らの目指す「日本色のイスラーム」を発展させるにあたって、伝統的イスラーム学に基づいたイスラーム理解の重要性を強調する一方、もう一方では「イスラームに入信することは外国人になることではない」と、イスラームの宗教歌(ナシード)を日本語に訳したり、日本の唱歌にイスラームの教えを表現する歌詞をつけて紹介したりと、日本語による布教活動を推進している。このような改宗ムスリムによる「意識した」イスラーム土着化の試みは欧米でもまだ珍しいが、言語ごとに分かれているムスリム・コミュニティを日本語を共通語として統一し、さらには移民中心であるこのコミュニティのホスト社会とのつながりを推進しようとする姿勢は、欧米の改宗ムスリムの姿勢と共通である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度の研究の目的は、平成26年度に続いて日本イスラム教団の活動内容に関する情報を得ること、国内のムスリム・コミュニティの指導者的存在である人々が教団の活動をどのように評価しているのかを解明すること、そしてこれらの指導者たちが日本でイスラームを布教するにあたって日本文化・宗教をどのように取り扱っているのか、を調査することであった。 しかし平成26年度の調査から、日本イスラム教団について直接の情報を有しているムスリム(とくに日本人ムスリム)は、同教団について語ることに非常に消極的であること、また、彼らより若い世代は同教団に関してほとんど確定的な情報を持っていないことが判明していたので、平成27年度は日本イスラム活動内容そのものに関する調査ではなく、同教団の活動内容との比較考察を念頭においた上で、国内のムスリム・コミュニティの指導者(特に日本人ムスリム)が、イスラーム布教活動において日本の文化慣習および宗教をどのように扱っているか、特にイスラームを日本に根付かせるためにどのような試みを行っているか、に重点をおいて調査を行うこととした。ここでは上に述べたように、一人の日本人ムスリムの活動にケーススタディとして焦点をあて、彼の日本におけるイスラーム土着化を目指す活動の内容を調査した。また、欧米の改宗ムスリムの活動に関する文献を参照して、日本を舞台とする本調査結果と欧米での傾向について試論的に比較考察を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、平成27年度に続いて、日本国内のムスリム・コミュニティにおける指導者的人物のイスラーム布教活動を調査し、またこれを踏まえて日本イスラム教団によって提言された布教方法を日本のイスラーム受容史の中に位置づけていく作業を行う。 具体的にはまず、国内の主なイスラーム団体もしくはモスクにて指導を行っているムスリムにインタビューを行い、布教活動において日本宗教および文化への言及を行っているかどうか、また日本におけるイスラーム土着化に向けて特別な試みを行っているかどうかを調査する。行っていると判明した場合は、対象者が属するモスクおよびコミュニティにてインタビューと当該活動の参与観察を行う。ここでえられた調査結果はまず平成27年度に行った日本人ムスリムの活動のケーススタディのそれと照合の上、日本にベースを置くムスリムの布教活動、特に日本人ムスリム(改宗ムスリム)のイスラーム土着化の試みに共通して見られる特徴を分析する。一方、日本イスラム教団の布教内容については、教団が推進したとされる「大乗イスラーム」の内容、特にイスラーム解釈における仏教の要素、についての分析を重点的に行う。ここでは平成27年度に指摘した点(同教団の活動はイスラーム土着化の試みではなくむしろ新宗教としての特徴を呈している)を踏まえた上で、戦前から現在にいたる国内のイスラームに関する言説および日本人改宗者のアプローチを考察しなおし、日本イスラム教団の活動内容の特徴を特定する。
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Research Products
(2 results)