2014 Fiscal Year Research-status Report
ソヴィエト建築の全体主義化においてマスメディアが果たした役割の研究
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26770060
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
本田 晃子 北海道大学, スラブ・ユーラシア研究センター, 共同研究員 (90633496)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 建築史 / メディア論 / 全体主義 / ソ連邦 / ロシア / 映画 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度中は、建築と映画に関わる以下の3つのテーマに関わる研究を進めた。 テーマ1(研究計画調書の主題①の内容にあたる)では、ロシア・アヴァンギャルドの代表的建築家イワン・レオニドフが、映画というメディアを自らの設計にいかなる意図の下に取り込んでいったのかを論じた。彼の残したテクストと設計図を分析した結果、レオニドフは労働者の教育・啓蒙のための施設である労働者クラブを設計する際に、映画を最も主要な要素とみなしていたことが分かった。彼はクラブ内における映画、特に集団で働く人びとの姿を映したドキュメンタリー映画の視聴を通して、労働者たちが集団化された「新しい人間」のイメージを共有し、そのような集団の一員としてのアイデンティティを培うことを期待していたのである。 テーマ2(研究計画調書の主題②の内容にあたる)では、アレクサンドル・メドヴェトキン監督の映画『新モスクワ』(1938年)をとりあげた。この映画の主題となったのが、当時スターリンの主導によって進行しつつあった、首都モスクワの改造計画だった。『新モスクワ』は、このモスクワ改造計画を礼賛するために撮影された映画といっても過言ではない。けれども本研究では、同映画中にスターリン建築の美学とは相対する「運動」「可変性」「複製可能性」といった要素が存在していたことを指摘し、映画の目的と演出手法の間に齟齬があったことを明らかにした。 テーマ3(研究計画調書の主題③の内容にあたる)では、ゲオルギー・ダネリヤ監督の2つの映画『モスクワを歩く』(1963年)と『ナースチャ』(1993年)をとりあげ、そこに描かれた地下鉄駅の形象を論じた。そしてこれらの映画においては、スターリン期の地下鉄駅のモニュメンタリティや、地下鉄駅を“地下の宮殿”とみなす地下鉄言説が、地下鉄の公共交通機関としての機能と相対する形で問題化されていたことを指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成26年度は、日露青年交流センターの若手研究者等派遣フェローシップに採用されたことによって、5月から翌年1月末にかけて約9か月間モスクワ(モスクワ大学)に滞在することができた。そのため特に資料収集・フィールドワークに関しては、計画よりも大幅な進展があった。 テーマ1については、6月にソウルの韓国外国語大学で開催された国際学会The 6th East Asian Conference on Slavic Eurasian Studiesにおいて、「ソヴィエト文化システムにおけるメディアとメディウム」と題されたパネルで報告を行い、現在は報告内容に一部加筆しつつ国際誌への投稿の準備を行っている。 テーマ2に関しては、既に平成25年度中に国内学会およびワークショップにおいて報告を行っていたため、平成26年度中は論文の執筆を中心に進めた。当初の研究計画では日本語ないし英語による論文投稿を予定していたが、ロシアへの長期滞在が可能になったことを活かし、ロシア語で執筆を行った。同論文は平成27年度中に埼玉大学の出版する論文集(タイトル未定)に収録・出版される予定であり、この論文の発表をもってテーマ2に関する研究は完結する。 テーマ3に関しては、本来は平成27年度に着手する予定の、研究調書の主題③(「地下鉄的想像力:ソヴィエトおよびポスト・ソヴィエト映画に見るモスクワ地下鉄建築の表象」)の一部であったが、テーマ2に関する研究が当初の予定よりも早く進んだことと、9か月間のロシア留学中に十分な資料収集・研究時間の確保ができたため、その一部を平成26年度中にまとめ、11月には山形大学で開催された日本ロシア文学会大会において報告することができた。 以上のように、平成26年度の研究に関しては、総体的に当初の予定以上の進展が見られた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度前期は、まずレオニドフの特異な映画観と彼の設計の関係に焦点を当てた報告を、国際学会International Council for Central and East European Studies(千葉県、幕張市)で行う。同時にこれまで報告してきた内容を英訳し、北海道大学スラブ・ユーラシア研究センターが発行する国際誌Acta Slavica Iaponicaへ投稿する。 平成27年度後期は、引き続きソ連・ロシア映画の中のモスクワ地下鉄の形象について考察していく。具体的には、まず1970~80年代に実際に地下鉄駅で起きた事故や事件を元にして撮影された映画に着目する。これらの事故や事件は、地下鉄駅をそれまでの神聖かつモニュメンタルな空間から、天災や殺人事件という「悪」との闘争の場へと変貌させることになった。もちろんいずれの物語においても最終的に秩序は元通り回復されるわけだが、ここには地下鉄空間をめぐる新しいコンテクストの形成を認めることができると考えられる。 次にソ連崩壊後の1990~2000年代にかけて撮影された映画をとりあげ、地下鉄空間がもはや実際の出来事に基づかない、虚構上の大規模な事故やテロ、殺人事件などの舞台として、いわば文字通りのアンダーグラウンドとして描かれていった過程とその背景を読み解く。その際には、同時期に実際の地下鉄駅を舞台に行われたパフォーマンス、小説やゲームなど、他のジャンルにおける地下鉄空間の描写とも、適宜比較を行う予定である。 なお以上の研究内容については、平成27、28年度中に行われる国内学会(表象学会、またはロシア文学会)、平成28年度に上海大学で行われるEast Asian Conference on Slavic Eurasian Studiesおいて報告し、それぞれ国内外の学会誌に投稿する予定である。
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Research Products
(6 results)
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[Book] 未定2015
Author(s)
Susumu Nonaka, Boris Lanin, Shinichi Murata, Junna Hiramatsu, Takashi Matsumoto, Satoko Takayanagi, Naoto Yagi, Akiko Honda, et al.
Total Pages
印刷中
Publisher
埼玉大学出版会
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[Book] The Image of the Region in Eurasian Studies2014
Author(s)
Suchandana Chatterjee, Svetlana Kovalskaya, Sergey Lyubichankovskiy, Hari Vasudevan, Sobhanlal Datta Gupta, Raj Kumar Kothari, Sharad K. Soni, Anwesha Ghoah, Lopamudra Bandyopadhyay, Mohamad Reyaz, Keiji Sato, Dmitry Seltsr, Minori Takahashi, R. G. Gidsdhubil, Akiko Honda, et al.
Total Pages
253-274
Publisher
KW Publishers