2014 Fiscal Year Research-status Report
未活字化の日記資料群からみる近代日本の青年知識層における自己形成の研究
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26770085
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Research Institution | National Institute of Japanese Literature |
Principal Investigator |
田中 祐介 国文学研究資料館, 学術企画連携部, 機関研究員 (40723135)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 日記 / 青年知識層 / 旧制高等学校 / 書記文化 / 読書文化 / リテラシー / 自己表象 / アーカイヴズ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、明治以降に綴られた未活字化の日記群の分析を中軸として、近代日本の青年知識層における自己形成の実態を日常的な読み書きの実践の現場から解明するものである。 2014年度は、「女性の日記から学ぶ会」(千葉県八千代市)の代表である島利栄子氏の許諾と協力を得て、同会が保有する約3,000点に及ぶ民衆の日記帳・家計簿・書簡の目録化を開始した。資料の総数と概要を把握し、将来の保管活用を見据えた基礎情報を整えることが目的である。このことはまた、一人の日記を通時的に読む「つづけ読み」のみならず、同時期に書かれた複数の日記を読み解く「並べ読み」の環境を整備することにもなる。2014年9月に第一回目の目録化作業をおこない、その後も月一回の頻度で進めている。 近代日本の書記・読書文化を学際的に考察すべく、研究会「近代日本の日記文化と自己表象」を組織した。2014年9月に第一回、12月に第二回、2015年3月に第三回を開催し、出席者は毎回約20名である。その学問領域も文学、教育学、歴史学、思想史学、社会学、文化人類学と多岐にわたり、学際的な研究環境が実現できている。会の活動を通じて、日記資料を用いた研究に新たに着手した出席者もいる。今後の成果に期待したい。 「近代日本の青年知識層における自己形成の実態」を明らかにする日記資料として、旧制第二高等学校のキリスト教主義学生寮の日誌である『忠愛寮日誌』の調査を開始した。東北大学史料館にて、計二回、四日間の調査を実施した。調査の成果公開として、2015年度に国際学会での発表を1件、招待講演を一件予定している。口頭発表と合わせて、成果は論文として活字化する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は三つの柱に分けられる。第一に日記資料の目録化、第二に「内面の日記」の分析、第三に青年知識層の自己形成を複眼的に理解する視座の獲得である。 第一点目については、「女性の日記から学ぶ会」からの許諾が頂けたことに加え、同会の会員からも作業協力者が得られたことから、目録化の進度を速めることができた。 第二点目については、事業申請時には未見であった『忠愛寮日誌』の調査に着手できたことが大きい。自己表象と読者の眼差しという点で同資料は示唆深く、新たな研究視座を得た。 第三点目については、研究協力者との討議が、当初計画より遥かに充実した共同研究会という形式で実現できた(「近代日本の日記文化と自己表象」)。遠方からの参加者も多く、学問領域も多様である。本研究の問題意識を学際的に考究し、複眼的な視座を獲得する環境として充実している。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き日記資料の目録化作業を推進し、2016年6月に「女性の日記から学ぶ会」が主催する20周年の集いで成果報告をおこなう予定である。作業の進捗により、作業人員の増減を調整する。 研究会「近代日本の日記文化と自己表象」を定期的に開催し、その成果公開に向けた準備を進める。具体的には、2016年秋季にシンポジウムを開催するとともに、論文集として刊行する可能性を探る。また、2016年度には、研究成果を市民に還元すべく、「近代日本の日記帳」展の開催を計画している。専門学芸員の協力は得られているが、日記という資料の性格に鑑み、公開に際しては慎重を期す。必要に応じて、専門家の助言を仰ぐ。
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Causes of Carryover |
2014年度の事業が当初計画より順調に進み、次年度以降に使用する予定であった人件費と旅費につき、20,0000円の前払い申請をした。その後の予定変更と旅程の一部短縮により、116,645円が残った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2014年度の残金と2015年度予算を合わせ、引き続き日記の目録化作業を進めるべく、人件費に使用する。また、資料調査および研究者のネットワーク構築のため、旅費としても使用する。 2016年度のシンポジウムと展示会の準備をすべく、立案に関わる協力者に謝礼を支払う。その他、準備作業に必要なソフトウェアを購入する。
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