2015 Fiscal Year Research-status Report
未活字化の日記資料群からみる近代日本の青年知識層における自己形成の研究
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26770085
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Research Institution | Meiji Gakuin University |
Principal Investigator |
田中 祐介 明治学院大学, 教養部, 助教 (40723135)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 日記 / 青年知識層 / 旧制高等学校 / 書記文化 / 読書文化 / リテラシー / 自己表象 / アーカイヴズ |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年度は、2014年度からの継続事業として、「女性の日記から学ぶ会」(千葉県八千代市)が収蔵する日記関連資料の目録化をおこなった。2015年9月9日には、同会の定例研究会において、「より豊かな日記の読み解きをめざして―「女性の日記から学ぶ会」収蔵の日記帳を目録化する―」と題して中間報告をおこなった。約3,000点の資料群のうち、半分に近い点数の基礎的な目録化を果たすことができた。事業最終年度の2016年度には全体の目録化を完了させたい。なお、目録化の意義について、同会の20周年事業の一環である記念文集「20周年のあゆみ」(2016年6月刊行)に寄稿した。 2015年3月には、国際基督教大学図書館に保管する、故福田秀一氏蒐集の日記資料について、「戦場」と「銃後」をキーワードにした日記資料の抽出とデータベース化に着手した。 近代日本の書記・読書文化を学際的に考察すべく組織した研究会「近代日本の日記文化と自己表象」では、2015年度中に計5回の研究会を開催した(第4回:2015年5月9日、第5回:2015年7月19日、第6回:2015年9月19日、第7回:2015年12月6日、第8回:2016年2月27日)。研究会の成果の一部は、計4名のパネル発表として国際学会で公にすることができた("Mass Literacy in Modern Japan: Transformed Practices of Reading and Writing" The Nineteenth Asian Studies Conference Japan、2015年6月21日)。 本事業の総決算として、2016年度にはシンポジウムと論文集の制作を計画している。シンポジウムについては2016年9月17、18日の開催が決定し、会場も確保できた(明治学院大学白金校舎)。論文集は研究会の報告者を中心に寄稿許諾を得て、現在情報交換をしながら初稿の完成を目指しているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は大別して三点である。第一に日記資料の目録化、第二に「内面の日記」の分析、第三に青年知識層の自己形成を複眼的に理解する視座の獲得である。 第一点目について、「女性の日記から学ぶ会」の目録化作業が順調に進展していることに加え、新たに国際基督教大学図書館に保管する日記資料(故福田秀一氏蒐集)のデータベース化にも着手することができた。 第二点目、三点目に関わることとして、研究会「近代日本の日記文化と自己表象」が当初の見込みを越えて充実化した。日記は自発的に綴るものであり、強制的に綴らされるものでもある。また点検者の存在は、日記の「書くべきこと」を無意識に要求し、絶えず書き手を規範化する。そこから逸脱した内容が綴られる際には苦言を呈して書き手を規範の中に押し戻すこともある。このような、自発と強制、規範化と逸脱の狭間における自己形成、自己表象について、研究会の各回で考察を深めることができた。また、研究会を紹介する雑誌記事(田中祐介「近代日本の日記文化と自己表象」『リポート笠間』第58号、2015年5月)を読んだ研究者の新たな参加も得られ、それが縁となり2016年2月には愛知学院大学人間文化研究所プロジェクトの研究会「日記文化のひろがり」との交流事業を催すこともできた。2015年8月にはチェンマイ大学(タイ)にて近代日本の日記文化に関する講演をおこない、両国の「書く文化」の共通性と差異を見据え、新たな問題意識を共有することもできた。これらはみな、当初の計画を越えた成果である。
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Strategy for Future Research Activity |
2016年度は、現在おこなっている「女性の日記から学ぶ会」収蔵の日記資料の目録を完成させる。あわせて、今後の日記資料の活用の活性化を見据え、国際基督教大学に所蔵する日記資料群(福田秀一氏蒐集)を対象とした、データベース化を進める。これにより、活字化された日記資料群について、誰が、いつからいつまで、どこで、どんな内容の日記を綴ったか、基本的な情報を整備するとともに、検索可能なデータベースの構築を見据え、将来的には「近代日本の日記データベース」に結実させるつもりである。 2016年9月17、18日には、研究会「近代日本の日記文化と自己表象」の総決算として、二日間のシンポジウムを開催する。簡易的な広報を5月末より始め、7月にはプログラムの確定を踏まえたポスター制作など本格的な広報に移り、企画の周知に努めたい。 2016年9月のシンポジウムにあわせて論文集用の原稿を完成して頂けるよう、寄稿者には既に依頼済みである。シンポジウムの成果を踏まえて内容改訂の期間を設け、同時に編集委員会を設けて質向上を図り、2017年度の早期出版を目指して鋭意努力する。
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Causes of Carryover |
「女性の日記から学ぶ会」が収蔵する日記の目録化作業にあてるべき予算のうち、研究分担者を務める他の科研費事業(代表:吉見義明中央大学教授、「日記資料に基づく高度成長期日本民衆のデモクラシー意識の特徴と変容に関する研究」)から人件費支出の協力が得られたため、当初計画よりも当プロジェクトからの支出が抑えられることとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
国際基督教大学に保管する日記資料群(福田秀一氏蒐集)のデータベース化を促進させる計画である。
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