2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26770086
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Research Institution | Jissen Women's University |
Principal Investigator |
河野 龍也 実践女子大学, 文学部, 准教授 (20511827)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 国文学 / 近代文学 / 台湾 / 中国 / 植民地 / 戦争詩 / 草稿研究 / 国際情報交換 |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年は、本研究における成果を対外的に示す機会に恵まれ、学界のみならず一般社会からも広い関心を集めることができた。特筆すべき実績としては、新発見資料2件の公開と、基本研究書の出版の2つが挙げられる。 まず、新資料として、佐藤春夫の少年時代の日記を発見。4月7日に新宮市立佐藤春夫記念館を通じてメディア公開した。また9月7日には、1935年~1936年に書かれた春夫宛の太宰治書簡3点の発見を伝えた。いずれも、NHKニュースのほか新聞各紙で大きく報道された。前者の解説として、「佐藤春夫11、12歳の日記」(『読売新聞』4月21日朝刊)、「父との駆け引きに魅力」(『毎日新聞』夕刊5月14日)の2点、後者の解説として「80年間の誤解を解く太宰治の“長い”手紙」(共同通信1月~2月配信:地方各誌掲載)1点を依頼に応じて寄稿した。とりわけ話題性が大きかった後者では、私信の公開ということに配慮し、佐藤・太宰双方の遺族と緊密に連絡を取った。また公開後も、興味本位や誤解を含む反応を避けるため、正確な報道の要請と、研究上の意義の十分な伝達に細心の注意を払った。 次に、計画中の『佐藤春夫読本』に新資料の図版を加え、記事を大幅に増補、地方の春夫関連資料も添えて400頁の内容とし、10月に勉誠出版より刊行した。前半約200頁の解説および取材記事を執筆。後半を寄稿論集とし、使用写真やレイアウトの提案を含めて全体の編集作業を綿密に行った。文壇に広範な影響力を持った佐藤春夫の初めての専門解説書として、研究に対する本書の寄与は大きい。 上記のほか、2015年度は、湖南師範大学、輔仁大学に招かれ、2件の発表を行った。いずれも中国・台湾の研究者と同席するアジア文学・文化研究の場であり、国際的に関心を呼ぶ佐藤春夫の業績につき、批評性の再評価と、問題提起を行えたことは、極めて有意義であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
資料公開の交渉を含む本研究では、進捗状況を確実にするため、3つのテーマを柱にして取り組んでいる。
A(春夫宛諸家書簡の翻刻と解説):新発見の太宰書簡の意義を、テレビ・新聞を通じて解説し、本研究の意義を広く知ってもらうことができた。十分な進展を見ている。 B(草稿類の整理と分析):佐藤家の新資料を、遺族、新宮市立佐藤春夫記念館、実践女子大学の協力を得て分類、整理し、一部は撮影を開始している。資料数が多く、重要度をもとに分類する段階にある。分析は今後の課題である。 C(台湾・中国紀行の詳註作成):2016年度は台湾において関係者遺族の訪問と、関連資料・遺跡の保存運動、紀行文註釈書出版計画の調整を計画している。そのための写真資料の収集と、収集文献の分類は、おおむね順調である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も、当初計画の3本の柱を維持して研究を進めて行く。
A(春夫宛諸家書簡の翻刻と解説):2016年は版画家谷中安規の没後70年にあたり、佐藤家から発見された書簡を含む新資料を、佐藤春夫記念館で展示予定である。これに関し、遺族との間を調整し、資料の分析に努める。その他、公開可能な書簡の選定と交渉にあたる。 B(草稿類の整理と分析):2016年度は在外研究期間となるため、原資料の整理は一時凍結した。撮影済のデジタルデータにより、翻刻・分析を進める。 C(台湾・中国紀行の詳註作成):台湾において関係者遺族の訪問と聞き取り、資料収集を行い、台湾・厦門のシンポジウムにおいて成果を発表する予定である。この場で、現存関連建物の保存を呼びかけ、また紀行文註釈書の出版につき協議する。
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Research Products
(3 results)