2015 Fiscal Year Research-status Report
後期モダニズム文学・文化における越境性ならびに集団性に関する研究
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26770107
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Research Institution | Tsuda College |
Principal Investigator |
秦 邦生 津田塾大学, 学芸学部, 准教授 (00459306)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | モダニズム / 後期モダニズム / 批評 / リベラリズム / インターテクスト性 / 映画 / アダプテーション |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、1930年代の英文学を中心に「後期モダニズム」の概念を多角的に検討することで、従来の文学史・文化史観を「後期帝国主義」の文脈から修正することを目的とするものである。この研究計画の2年目にあたる2015年度では、研究の対象を①1930年代における文学批評言説の台頭と展開、②1930年代のアダプテーション映画に拡大して、より多角的な観点から研究と資料収集を継続した。 第一に、批評家I. A. リチャーズの批評的著作と、それに対するさまざまな応答を「リベラリズムの危機」という歴史的文脈から考察した。リチャーズの詩学批評と、それに論争的に応答した詩人T. S. エリオット、W. H. オーデン、批評家スティーヴン・スペンダー、クリストファー・コードウェルらの著作はいずれも、当時の政治的危機を背景として「美」と「真実」の乖離と再結合の可能性を探求したものだった。だが、20世紀半ばにリチャーズを継承したアメリカの新批評は「美」と「文学」の自律性を定式化することで、そうした政治的文脈を隠蔽した。このような経緯を発掘する作業によって、「後期モダニズム」が応答した政治的文脈をより精密に再構成することが可能となった。この研究については、2015年5月に開催された日本英文学会シンポジウムにて口頭発表をおこなった。 これと並行して、「後期モダニズム」の政治意識をよく反映するものとして、当時のイギリス映画が文学作品(特にスパイ小説)をいかにアダプテーションしたのか、またそれが公開時にいかなる政治的問題を引き起こしたかを、アルフレッド・ヒッチコックをケーススタディとして研究した。これについてはまだ資料収集の段階であるが、2016年度以降、さらに資料を収集・精査して、口頭発表または活字化による成果の発表を検討したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2年目の研究について、上の項目で第一の文学批評言説の台頭と展開についてある程度まとまった内容を口頭発表し、さらにそれを学会プロシーディングにて活字化することができた。さらに研究を積み増し、より充実したかたちでの活字化を検討したい。 他方で、第二のアダプテーション映画研究に関しては、当初予定していた2015年度末の海外資料調査を遂行する時間的余裕が諸般の事情でなくなってしまった。この対する対策として、物品にて購入できる資料を先に収集し分析を進めたが、アーカイヴ調査は2016年度に延期となったため、「やや遅れている」と判断した。これについては2016年度夏にあらためて海外資料調査をおこない、遅れを取り戻すことにしたい。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画の出発当初は1930年代に特に焦点をあわせる予定であったが、研究実施において明らかになってきたのは、30年代の時代状況を、40年代・50年代との通時的変化の文脈において理解することの重要性である。そこで2016年度からは、扱う時代の幅をすこし拡大して、第二次世界大戦や初期冷戦期の文化・政治状況を視野に入れつつ、これまでに扱ってきた作家・テクストについてもこうした広い文脈での再検討をおこなう必要がある。 また、この研究計画の最初の2年においては、「後期モダニズム」の事例研究とその比較対照による枠組みの検討をおこなうために、インターテクスト性を重視してさまざまなテクストを分析の対象としてきた。今後は、これらのさまざまな事例研究と比較対照の積み重ねをまとめてゆく準備をするべく、「後期モダニズム」の境界線を見定める、言いかえれば、「後期モダニズム」以後のパラダイムの転換点をどこに置くのかを考慮しつつ研究を継続する。
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Causes of Carryover |
2015年度は3月に海外アーカイヴ調査のための旅費を計上していたが、研究代表者が所属大学を異動になった(津田塾大学から2016年度には青山学院大学に所属変更)ため、研究室の整理・引っ越し等の準備に時間を取られ、海外アーカイヴ調査を実施できなかった。その代りに購入できる資料を前倒しで発注して経費の消化を試みたが、結果的に次年度使用額として残すことになった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2015年度3月に実施できなかった海外アーカイヴ調査については、2016年度の夏季休暇中に実施できるように早急に計画を立て、速やかに実施したい。
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Research Products
(3 results)