2014 Fiscal Year Research-status Report
20世紀前半アメリカ海外医療事業とアジア太平洋地域の公衆衛生制度
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26770210
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
牧田 義也 一橋大学, 大学院社会学研究科, 日本学術振興会特別研究員PD (90727778)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | グローバル・ヒストリー / アメリカ史 / 国際史 / 国際赤十字運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、20 世紀転換期以降 1920 年代までのアジア太平洋地域における公衆衛生制度の形成過程に対して、アメリカ合衆国(以下合衆国と略記)の海外医療事業が与えた影響を、アメリカ赤十字社及び同社が主導した国際赤十字連盟の保健事業に焦点を当てて考察する。この目的のために、平成26年度は合衆国にて史料調査を実施するとともに、研究成果を論文・国際会議報告等のかたちで発信した。 史料調査については、メリーランド州の国立公文書館にて、20世紀初頭のアメリカ赤十字社による海外公衆衛生事業に関する非公刊文書類を収集するとともに、ニューヨーク公立図書館非公刊文書部にて、同海外事業に関するより個別的な事例情報を、個人文書類を中心に収集した。これらの史料調査によって、研究対象時期のアジア太平洋地域におけるアメリカ赤十字社による公衆衛生システムの構築過程を、組織編成原理と末端における実務実施状況という二つの局面から多角的に明らかにすることが可能となった。 研究成果の発信については、First World War Studies誌に発表した論文"The Alchemy of Humanitarianism"にて、1922年東洋赤十字会議の分析を中心として、第一次世界大戦後のアジア太平洋地域における国際赤十字運動の展開を明らかにした。また、9月にはオーストラリア国立大学にて開催された国際会議"Exchange and Change: The Philippines and Filipinos in the World"にて、アメリカ赤十字社フィリピン支部の衛生事業に関する研究報告を行い、人道主義事業と植民地統治の結合過程を考察した。 これらの調査と研究報告は、赤十字国際衛生事業の黎明期におけるアジア太平洋地域での事業展開を、理念と実態の両面から明らかにする意義をもつ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度の調査の主眼は、(1)植民地期フィリピンにおいてアメリカ赤十字社の衛生事業が果たした役割を、合衆国植民地行政全体の中に位置づけて分析すること、(2)合衆国フィリピン委員会保健局の活動に統合された赤十字衛生事業が、フィリピン現地住民との折衝・協働・対立を経て同地の公衆衛生制度の基盤を形成したことを、特にマニラ市を分析対象として論証すること、(3)合衆国本土のアメリカ赤十字社本部が、フィリピンでの事業経験を、国際赤十字連盟及び同社海外支部組織のネットワークを通じて、他地域へと応用していく過程を検証することであった。これらの調査・分析は、概ね順調に達成することができた。 平成26年度は以下二つの点で当初の研究計画からの変更があった。第一に、海外研究誌の編集スケジュールの影響を受けて、平成26年度に投稿予定であった論文に先行して、当初平成28年度に投稿予定であった論文内容の一部が出版されることになった。第二に、上記の論文執筆スケジュールの変更と関連して、追加の史料収集をニューヨークで実施した一方で、当初予定していたスイス・ジュネーヴおよび合衆国カリフォルニア州での史料収集を平成27年度に持ち越すことになった。ただし、これらの変更点はあるものの、研究計画全体としては分析・考察を当初の予定を上回るペースで進展しており、平成26度の成果を平成27年度以降に有機的に結びつけることで、より一層の研究の発展・拡張を実現させていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策は以下三点にまとめられる。第一に、平成27年度は平成26年度から持ち越した史料収集を着実に実施した上で、当初予定の更なる史料の収集・分析と有機的に関連づけ、20世紀前半の国際赤十字運動の展開を、人道主義運動と公衆衛生事業のグローバルな広がり、およびそのアジア太平洋地域における実施実態という二つの側面から考察することが課題となる。このような史料の大規模な収集活動を効果的に実施し、また収集済み史料の整理・分析の迅速化・効率化を図るために、史料情報のデータベース化を逐次進行させていく。第二に、本研究課題は実証的グローバル・ヒストリーとして地域・国家・国際機構という三つの観点から分析対象を考察するという方法論的挑戦でもある。このように多次元かつ複数地域に及ぶ対象事例を十全に分析するためには、これまで各国別に構築されてきた史学史を横断的に考察・統合していくことが重要となる。そのために今後の研究では、まず国際比較の視点に基づく史学史の再確認を行った上で、その成果を本研究の実証分析に結びつけて広域アジア太平洋地域の新たな歴史像の創出へとつなげていく。第三に、本研究計画の各年度に実施する特定地域の分析を、統一された実証研究へと結実させるためには、単年度の課題達成目標を研究計画全体のなかで有機的に結びつけることが必要となる。そのために、本研究では各年度の課題を連結・統合する上で必要となる追加データの検出作業を、研究遂行上の必須課題として位置づけた上で逐次実施し、過去20年間の実証的グローバル・ヒストリー研究が直面してきた大きな課題の一つである研究のコンパートメント化の問題を解消する。
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Causes of Carryover |
海外研究誌の編集スケジュールの影響を受けて、平成28年度に投稿予定であった論文の一部が先行して出版されることになった。この変更と関連して、海外文書館での史料収集を部分的に平成27年度以降に持ち越すことになった結果、次年度使用額が生じることになった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当初予定していたスイス・ジュネーヴおよび合衆国カリフォルニア州での史料収集を、平成27年度に、他の史料収集と並行して実施するため、その費用にあてる。
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Research Products
(2 results)