2014 Fiscal Year Research-status Report
満鉄農事試験場からアジアへの知識の拡散―寄贈資料と接収資料から見る影響分析
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26770246
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
湯川 真樹江 学習院大学, 付置研究所, 研究員 (20709000)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 国際情報交換 / 農事試験場 / 寄贈史料 / 保存と破棄 / 研究報告書 / 添え状(日時、場所など) / 技術者間交流 / 目録作成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は積極的に学会・研究会への参加を行った。国内と海外にて研究報告を行い、現地の研究者と意見交換ができたのは大きな収穫であった。学会参加を通して各地の農事試験場や大学図書館等の史料状況について情報を収集した。 また、台湾中央研究院近代史研究所では農林部トウ案を閲覧し、国民党による満洲国立農事試験場の接収に関する史料を大量に入手した。トウ案の中で特に重要とみられたのは、引き渡しの物品、土地、人員のリスト、そして接収後のこれらの財産の運用状況を記した資料である。そこには当時農事試験場が所有していた財産と、その破損・修復状況が書かれていた。こうしたトウ案と当時の新聞、関係者の回想録をつき合わせていくと、満洲国の崩壊後、農事試験場がどのようにして国民党の手にわたり、業務が再開されていったのか知ることが可能である。現在は調査史料を丹念に読み込み、論文を執筆している。平成27年度中には論文を発表する予定である。 また、東京都などの農事試験場も訪れ、図書室を調査した。調査前の予測のとおり、そこには満洲国立農事試験場の寄贈史料が大量に所蔵されていた。特に史料的価値があるとみられたのは、寄贈史料に添えられた添え状である。添え状には寄贈年月日と寄贈者(個人名含む)、寄贈の目的などが記されていたため、これらの情報を通して満洲国立農事試験場と内地の農事試験場の関係や技師間の人的つながりなどを推測することが可能である。調査者は当時の状況を伝える貴重な史料として、添え状の形態や記録事項等をノートに記している。 また他にも農事試験場図書室所蔵の関係史料目録を作成している。そのため、現在は各地の史料データが蓄積されつつある。本調査が完成した際には内地における満洲国立農事試験場寄贈史料の全体像が明らかとなろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は研究者との交流に重視を置いたため、学術的知見を得られたことが大きな成果であった。遠隔地にも積極的に赴いたことで、都内では見ることの出来ない資料を閲覧し、訪問先の図書室などの所蔵状況を把握することが出来た。また、各地の農事試験場を訪問、資料調査を行ったことで満鉄農事試験場の史料がどの範囲にどの程度普及していたのか確認することができた。調査後には目録を作成しているため、徐々にデータが蓄積されつつある。 1年目は順調に研究が進展したので、2年目も引き続き精力的にデータを収集していく。
今年度台湾中央研究院で蒐集した資料を基に現在論文を執筆中であるが、これらの史料は他では見られない大変貴重なものである。数回の訪問を経て十分な史料を入手したため、国民党による接収が如何に行われてきたのか、全体像を示すことが可能となっている。 これまでの農事試験場研究では、調査者による共産党の接収についての調査を除いて、戦後の農事試験場の変遷を詳細に見てきたものはなかった。そのため、本論文を作成、発表することで国民党による農事試験場の接収の実態と研究内容、技術者の変容などを社会に知らせることが可能である。 また、農事試験場関連史料はもちろんのこと、関係する人物やモノについて記した書籍も購入した。そのため、農事試験場の接収について多角的な視点から分析することができた。引き続き関連史料の購入も積極的に行い、全体的な視野からの分析を試みる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、さらに各地の農事試験場図書室調査を行っていく。各県のみならず、関連する資料室や個人のコレクションも視野にいれながら史料の所蔵状況を調査する。その際に保存と紛失状況も記載し、関係者のインタビューを行っていく。また、近年満洲の農業関係の研究書が大量に刊行されたため、これらの書籍の購入も行っていく。
次年度は韓国の調査を行う予定であるので、水原農村振興庁(元・朝鮮総督府農事試験場)図書室にある満鉄農事試験場寄贈史料の所蔵状況を明らかにする。そこでは、朝鮮総督府農事試験場が如何に接収され業務が再開されたのか調べ、満洲の農事試験場接収状況と比較・分析しながら論文を執筆していく。またソウル市立大学は戦前農業学校であったことからこの大学の図書室も調査する。ここには農業学校の学生が記した雑誌が良好な状態で残されており、当時の学生生活と学習内容、そして就職先を知ることが可能である。内地の日本人技術者のみならず朝鮮人の技術者が如何に農事試験場に勤務していったのか、待遇はどのようであったのか等を調べ、植民地における農業試験研究の実態を明らかにする。
さらに、内地の技術者と朝鮮人技術者の関係を調査する。朝鮮に渡った技術者は東京帝国大学出身者が多い。朝鮮の農業学校を卒業した学生との関係、そして北海道帝国大学出身者の多い満洲の農事試験場に比べることで、その特徴を抽出することができると考えている。よって次年度の書籍購入も農事試験場の史料のみならず、関連する人、モノ(大学の沿革史など様々である)を対象に精力的に行っていきたい。朝鮮総督府農事試験場の接収についての調査完了後は論文を執筆し、韓国での報告を行う予定である。
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Causes of Carryover |
次年度は当初の計画通り、引き続き国内各県の農事試験場の資料調査を行う。日本各地にある試験場に行くまでの交通費、宿泊費、史料費が発生する予定である。さらに今年度も精力的に学会報告を行う予定であるので、遠近を問わず関連する学術研究報告に参加し、学術的意見交換を行う。 また、海外でも今年は中国、韓国の資料調査を行う予定である。近年中国、韓国の研究者とのネットワークが構築されつつあるため、積極的に農事試験場の資料調査を行いたい。さらに韓国での研究報告を行う予定であるので、韓国で出版されている先行研究を丹念に読み込み、韓国側の学識者と意義のある交流を目指す。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2015年度調査者はこれまで培った人的ネットワークを活用して海外の史料調査を積極的に行う。 夏は中国東北部に赴き、満洲国の農業関連史料を調査する。韓国では水原の農村振興庁(旧朝鮮総督府農事試験場)の図書室を調査し、海外における満鉄農事試験場関係資料がどの程度所蔵されているのか明らかにする。特に台湾では前年度継続して中央研究院への訪問と学術報告をしたこともあり、調査の土台ができている。中央研究院は特に史料の閲覧がしやすい。そのため、訪問回数に比例して史料の収集量も増加する。前年度見られなかった史料もまだあるので、引き続き調査を行いたい。 さらに調査の必要があれば、当初の計画時期にこだわらず樺太も訪れ、関連資料の入手を目指す。樺太の調査については現地の協力を得ながら、まずは現状調査を行う予定である。海外各地への渡航が数回予定されているため、航空券、宿泊費などの調査費用が発生する見込みである。
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Research Products
(8 results)