2016 Fiscal Year Research-status Report
満鉄農事試験場からアジアへの知識の拡散―寄贈資料と接収資料から見る影響分析
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26770246
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
湯川 真樹江 学習院大学, 付置研究所, 研究員 (20709000)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 引揚げ / 留用 / 興農合作社 / オーラルヒストリー / 会報 / 機関誌 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度は日本各地に存在する引揚団体を積極的に訪問し、満洲や朝鮮について聞き取りをした。2016年3月に解散した財団法人満鉄会では、会報や所蔵資料の閲覧をし、天野専務理事より会の活動について確認した。その成果は「満鉄留魂祭参加記」(『満洲の記憶』3、2016年)や近日刊行の「留魂碑建立をめぐる意見と満鉄の記憶と表象―『山内丈夫編纂資料』の生み出される背景に着目して」(『日本オーラル・ヒストリー研究』第13号、2017年9月刊行予定)にて発表した。これらの研究成果を通して、満洲での技術者集団がかつての業務を如何に捉え、戦後をどのように考えてきたのか把握することができた。 さらに満洲興農会を訪れ、会長の清田氏より満洲における農事指導の内容や、現地との関係などについて伺った。あわせて「興農合作社関係資料」(DVD-ROM)を購入し、史料からの検証を行った。それにより、満鉄農事試験場が開発した品種は興農合作社の農事指導によって広められ、その範囲はこれまで考えられていた以上に広大であったことを認めるに至った。現在それについての論文を執筆中である。 2016年3月には、中国吉林省を訪問した。1950年代の農業雑誌『東北農業』や『農業技術』などを閲覧し、戦後の農業技術の状況を調査した。また実際に農村を訪問し、作物や地域への考察を進めた。さらに中国人研究者との意見交換が進んだため、今後は共同で研究を進める予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
前年度は史料収集や関係者への聞き取りが順調であったので、多くの研究成果を発信することができた。前々年度からオーラルヒストリーに関する理論を学び、前年度9月に学会の場で満洲の「記憶」や「表象」を報告することができたのは大きな成果であった。また、近接研究者と協力し史料の収集や保存も進んでいる。今後はこれらの史料を有効に活用し、世間に発信していく。
韓国では旧朝鮮総督府水原農事試験場に所蔵されていた書籍の調査も進んだ。 さらに9月には韓国の満洲学会主催の「満洲の近代化と東北亜社会変動」というシンポジウムにて報告を行った。韓国の満洲研究者とも意見交換を行い、韓国でも「近代化」という視点から如何に社会が変わっていったのか、深い関心をもっていることを確認するよい会となった。前々年の中国南京での報告および研究者交流に加え、韓国の研究状況をも知ることができたことは、北東アジアにおける農業研究状況への理解を深める上で有意義であった。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、これまでに収集した史料を読み込み、更なる成果の発信に努めていく予定である。台湾にある中央研究院のトウ案資料、中国吉林省の農業技術関係資料、興農合作社の機関誌『興農』、満洲引揚者から受贈した満洲関係資料を活用し、当初の研究目的を達成していく。また満洲関係資料の目録を作成し、世間への情報発信も行う予定である。 また、前年度の成果を引き継ぎ、中国吉林省農業科学院の研究者とともに1950年代の育種事業を分析し、共同で論文を執筆する予定である。それにより、満洲国の崩壊後、いかに現地の技術者らが研究活動の再開を行い、またソ連の農業技術を取り入れていったのかを明らかにしたい。そうすることで、戦前に行われた育種研究の連続性、または断続性の側面を知ることができると考えている。 さらに現地の農村とのつながりを分析し、政府の推奨技術がいかに農村に受容・排除されていったのか、また農民が過去(満洲国期)の推奨技術をいかに捉えていったのかを明らかにしたいと考えている。 今年度は試験場からの視点、農村からの視点など多様な分析視角をもちながら調査をすすめる予定である。
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Causes of Carryover |
前年度は国内および海外での調査を行ったが、その際に史料を無償で寄贈されたり、カメラで撮影したりしたため、結果的に次年度使用の研究費が生じることとなった。また、近年は関連論文がインターネット上でダウンロードできることもあり、複写代金などを請求することが相対的に減少した。大学内のネットワークを通じて無料で論文を確保することができたことも、今年度の使用額が減った理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度も引き続き、高齢化が進む引揚者への聞き取りと各地での資料収集を積極的に行っていきたい。さらにインターネット以外で入手が可能な史料やマイクロフィルムの購入をすすめていく。地域関係の書籍はネットでの購入が難しいため、現地の書店に赴いて購入する予定である。 また、各地の農事試験場図書室も訪問し、地域ごとに異なる試験場の所蔵資料が如何なる特徴を有しているのか、明らかにしていく予定である。よって調査地域への渡航費、滞在費等が計上される予定である。
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Research Products
(4 results)