2014 Fiscal Year Research-status Report
フランス革命期の美術館政策に見る中央集権化の実態―地方美術館の創設と美術品の移動
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26770257
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
田中 佳 徳島大学, 大学院ソシオ・アーツ・アンド・サイエンス研究部, 准教授 (70586312)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 美術館 / フランス / 地方 / フランス革命 / パリ / 文化遺産 / 美術政策 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究者はこれまで、パリのルーヴル美術館の創設の経緯に関わる研究を行ってきた。それらの成果を踏まえ、本研究は1793年8月10日の美術館開館以降、フランス革命政府が共和国の理念の浸透に向けてフランス全土でどのような文化政策を展開していくかを、美術館をめぐる政策を中心に検討するものである。とりわけ、これまで手薄だった地方における美術政策の実態に注目し、中央と地方の関係を検討することで、最終的には文化の中央集権化がどのように進められたかを明らかにすることを目指している。 研究期間の初年度である本年度は、次年度以降の本格的な研究に向けた準備を整える期間と位置づけ、先行研究の収集と整理と精査、刊行済みの一次史料の入手、各地方および地方美術館に関わる一次史料の特定とアクセスの可能性についての予備調査を行うことを優先させた。これらの調査を手持ちの研究文献のほか、日本国内の図書館(一橋大学附属図書館、日本大学芸術学部図書館等)およびインターネットにて行い、今後の本格的な現地調査において閲覧すべき史料が、史料番号のレベルまで確認された。 一方、先行研究を精査する段階で、地方美術館の中にはアンシァン・レジーム期に前身を持つものや、すでに計画されていたものが存在することが分かり、時代を多少遡って、それぞれの地方における美術活動のあり方を把握する必要が生じた。また美術館の創設に際しての美術品の移動についての調査に着手したところ、これまでには指摘されてこなかった政治性も浮かび上がってきた。とりわけ中央の共和国美術館の最初の展示作品を詳細に分析してみると、旧体制を否定したとは到底言いがたい特徴が確認された。当初の予想以上に旧体制との繋がりに注目することが重要であることが理解されたため、今後の調査はこの点を意識しながら進めていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
次年度以降の本格的調査のための準備期間である本年度には三つの柱を立てていた。一つは、国内で入手可能な文献資料の収集と調査であり、先行研究や関連文献、また刊行された一次史料(革命期の議会の議事録、美術関係の各種委員会史料等)を対象とするものである。先行研究から文献や史料の存在を把握し、とくに中央の美術館関係のものはだいたい入手できたが、地方美術館に関して、それぞれ概要はまとめられたものの、個別の文献の調査がまだ不足している状況である。 第二に、日本国内の図書館やインターネットを用いて、各地方の図書館や文書館、美術館における現地調査の準備を行うべく、史料の保管状況を把握し、資料番号を特定するという目標については、史料の存在と番号の特定まで作業が進んだ。今後、調査先への問い合わせなどを経て、実際に調査に赴く場所を選定していく。 第三に予定していたパリでの補完的な史料と作品の調査、および地方美術館に関する予備調査であるが、今年度の調査旅行を断念せざるを得なかった。「概要」で述べたように、共和国美術館の展示作品の詳細な分析や、地方におけるアンシァン・レジーム期の美術活動の把握など、当初は想定していなかった作業の必要が生じ、少々手間取ってしまった。とはいえ、この作業によって、今後の研究にとってきわめて有用な知見が得られたため、もちろん無駄ではなかった。今回成し遂げられなかったパリでの調査については、次年度の調査旅行期間を十分に設定し、地方への調査の前に組み込むことで補っていく必要があると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究に際しては以下のような方針で進めていく。 1.フランスの文書館、美術館、図書館にて中央美術館および地方美術館に関する本格的な調査を行うための準備作業を完成させる。本年度に収集・調査できなかった文献や史料の収集・精査を急ぐ。その中で、候補に挙がった地方美術館の担当者と連絡を取り、調査の対象とする地方を選定する。 2.フランスの文書館、美術館、図書館にて中央美術館および地方美術館に関する本格的な調査を進める。長期休業中にフランスへの調査旅行を行い、文書館や図書館、美術館資料室にて一次史料を調査するとともに、各地方美術館において、重要な意味を持つ作品の実験調査と写真撮影、作品資料の調査を行う。一度の調査ですべての候補地をこなすのは困難であるため、複数回にわたって調査を行う。 3.調査で得られた知見の妥当性、客観性を問うために、国内の研究会や学会などの場で研究発表の機会を求め、専門家から意見をもらう。まずは、先に得られた、革命期の美術館政策におけるアンシァン・レジームの継承について、なるべく早い段階で知見を整理し、公表すべく努めたい。 4.調査の成果がある程度まとまった段階で、フランス革命期の美術館研究の第一人者であるパリ第一大学ドミニク・プロ教授と意見交換を行う機会を求める。可能であれば、氏が主催するセミナーや学術集会へ参加し、専門家との議論を経たうえで、最終的な成果を学術論文または著書のかたちで公表したい。
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Causes of Carryover |
先行研究を精査する過程で、革命期に創設された地方美術館には、アンシァン・レジーム期の美術活動を継承するものが存在したこと、また美術館創設時の美術品の移動にも、やはり旧体制の美術制作の残滓が確認される部分があり、当初はあまり想定していなかった旧体制との繋がりという側面を解明するための手間と時間が必要になった。そのため、本年度に予定していたパリでの補完的な史料と作品の調査、および地方美術館に関する予備調査を断念した。このことから、渡仏に関わる旅費相当分が未使用となったことが、差額が生じた主たる理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度に見送ったパリの文書館や図書館、美術館での調査は、平成27年度の調査旅行の際、滞在期間を十分に設定し、地方への調査に出かける前に組み込む予定であるため、その際に未使用額を使用することになる。また、すでに収集した資料も含めた資料整理のために、研究補助を依頼する予定であり、一部はその謝金に充てるつもりである。
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