2015 Fiscal Year Research-status Report
日本憲法学の源流――穂積八束と明治15年の「主権論争」
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26780006
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
西村 裕一 北海道大学, 大学院法学研究科, 准教授 (60376390)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 穂積八束 / 美濃部達吉 / 憲法学説史 / 国体論 |
Outline of Annual Research Achievements |
まず、本研究の主題に深く関係する研究成果として、「穂積八束を読む美濃部達吉――教育勅語と国体論」がある。この論文は、本研究の主題である穂積そのものを対象とするのではなく、いわば穂積の周辺から穂積憲法学にアプローチするという手法の一環として、穂積の国体論を次の世代の憲法学者である美濃部達吉がどのように読んだのかというテーマについて研究を行ったものである。本論文においては、国体概念について穂積と美濃部とが対立していたという通念に対し、美濃部には穂積の国体概念を継承していると言い得る側面があることを明らかにしようとした。なお、本論文を執筆する過程で、明治期の憲法学を考察するためには加藤弘之の検討が必要であるという示唆を得たことも収穫であった。 また、同じく本研究の主題に関係する研究成果として、「もう一つの上杉・美濃部論争――自由法論をめぐって」がある。この報告は、明治末年から大正初年にかけて展開された自由法論をめぐる論争を描写したものであるが、その論争が東京帝大法科大学内に組織されており穂積もメンバーであった「法理研究会」という場において展開されていたことが、本研究との関係では重要である。 さらに、今年度においては、我が国憲法学における「憲法変遷」概念の変遷についての研究を行った。これもまた穂積そのものを対象とするものではないが、該研究の過程において「理法」をめぐる美濃部と上杉との対立を明らかにすることができたことは、上杉の師である穂積憲法学の一端の解明にもつながり得るであろう。この成果は、次年度に公表される予定である。 なお、本研究の副産物的な研究成果として、「情念の行方――象徴・代表・天皇制」、「第1期改憲論議を振り返る」及び『憲法演習ノート――憲法を楽しむ21問』をそれぞれ公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず、今年度の研究計画の第一は、前年度に収集した資料に基づいて、明治初期の知識人社会のあり方について分析・検討を行い、「主権論争」において論争当事者たちが憲法や立憲主義に関してどのような概念や知識を前提として議論していたのかを明らかにするというものであり、研究計画の第二は、明治初期の知識人社会に影響を与えた欧米思想、殊に19世紀ドイツ国法学の受容研究を行うというものであった。これらの課題については地道に作業を続けているところであるが、公表には至っていない。 もとより、このことは本研究の進展が滞っているということを必ず意味するわけではない。すなわち、Ⅰで述べたように、第一の点については「もう一つの上杉・美濃部論争――自由法論をめぐって」において、東京帝大法科大学という限られたサークル内部の組織とはいえ、「法理研究会」という場に着目することによって、明治・大正期の法律家共同体のあり様を分析するための手がかりを得ることができた。また、第二の点については「穂積八束を読む美濃部達吉――教育勅語と国体論」及び「憲法変遷」概念の変遷をめぐる研究において、Hermann Schulze, Paul Laband, Georg Jellinekといったドイツ国法学者たちの見解が我が国においてどのように受容されたのかについて、その一端を解明することができた。このように、昨年度に掲げた研究計画とは若干異なった経過を辿ったものの、当初の目的に向かって研究は着実に進展していると思われる。 以上より、本研究は「おおむね順調に進展している」と評価するものである。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、前年度に引き続き、当時の穂積八束が置かれていたコンテクストを明らかにするために、明治初期の知識人社会に影響を与えた欧米思想の受容研究を行うことによって、「主権論争」において論争当事者たちが憲法や立憲主義に関してどのような概念や知識を前提として議論していたのかを探求することになる。この点、ドイツ国法学説の研究は前年度に引き続き行うことになるが、それに加えて、井上毅にも大きな影響を与えたフランスの憲法思想を研究する必要があるのではないかと考えている。とりわけ、明治15年に穂積が執筆した諸論考を検討するに当たっては、Emmanuel-Joseph SieyesやBenjamin Constantらの検討が不可欠であるように思われるため、可能な限りそのような方面へも視野を拡大していくつもりである。
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Causes of Carryover |
平成28年3月に物品購入を行ったが、これらにかかる支出につき会計処理の都合上、3月中に予算執行が間に合わなかったため、平成27年度研究費に余剰が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
年度内に支払われなかった物品購入にかかる経費に、平成28年4月にこの分を充当して、直ちに予算を執行する。
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Research Products
(7 results)