2016 Fiscal Year Research-status Report
性犯罪者に対する刑事的サンクションについての総合的研究
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26780042
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Research Institution | Kokugakuin University |
Principal Investigator |
甘利 航司 國學院大學, 法学部, 准教授 (00456295)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 刑事法学 / 刑法学 / 刑事政策学 |
Outline of Annual Research Achievements |
性犯罪者に対するサンクションとしては、大きく分けて三つある。一つは、古い歴史を持つ登録制度である。そして、この登録制度は、登録だけでは市民が危険性に対処できないとして通知制度というものに変質する場合もある。二つ目は、性犯罪者を公園や幼稚園といった場所から一定距離以内には住まわせないという居住制限である。三つめは、性犯罪者に対して、GPSを付けて24時間体制で監視するという制度である。 これらは、一般的に刑罰とは異なっており、そのため、対象者は拘禁刑を終了した後にも科される。そして、対象者の危険性に対処するものとされている。つまり、我が国の用語に従えば、「保安処分」である。しかし、保安処分は、それが効果がある場合に(のみ)正当化されるものであるところ、そういったものの効果については明確にはされてこなかった。 本研究によれば、以上三つの「サンクション」(刑罰ではないため、このような用語を使用する。)には、再犯防止の効果はない。例えば、子供に対する性犯罪は家の中で行われることが多く、また行為者は被害者の親族であることがほとんどである。そうだとすると、登録・通知制度では阻止することが出来ない。そして、より根源的な問題は、こういったサンクションが対象者を「極限にまで」追い詰める制度であるということである。追い詰められた人間が社会復帰が出来るわけがない。また、性犯罪者は、性欲が強いといった事情ゆえに性犯罪者になっているわけではない。むしろ、社会の中での孤立・貧困といったことが、彼らを犯罪に駆り立てている。必要なのは、そういったことへの対処である。本研究は、性犯罪者の再犯防止にとって必要なのはサンクションではなく、支援であると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究で行おうとしたものは、諸外国での実施状況を丁寧に分析し、比較検討したうえで、我が国への導入可能性を検証するというものであった。特に、大阪府においては条例(「子どもを性犯罪から守る条例」〔2012年10月施行〕)が、性犯罪者が刑期を満了した後に大阪府に居住する場合に、氏名等を知事に届けなければならないとしており、これは諸外国での実施例を前提とした「性犯罪者に対するサンクション」である。こういった動きが、これから広まっていく中で、本研究は、そういったものが有効で合理的な制度であるかを検証するというものであった。 諸外国での実態調査もGPS型監視を中心には検討できた。しかし、その他の(アメリカで行われている)制度については、研究代表者が在外研究で時間をとられた関係で、本格的な検討が出来なかった。特に、居住制限に関しては、実証的な分析については多くの時間がかかったにもかかわらず、研究代表者の統計学的な解析能力の問題もあり、思った通りの解析結果がでていない。 また、諸外国の法制度についても、我が国との適切な比較検討が出来ておらず、まだ道半ばという印象がある。 そして、本研究に伴う研究成果の公表は遅れに遅れており、この遅れを取り戻す必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究においては、性犯罪者に対する処遇プログラムに再犯防止効果が認められた。そのため、再犯防止効果の分析、特にカナダにおいて行われている処遇効果についての分析が急務と思われる。 性犯罪者に対するサンクションのうち、居住制限と登録・通知制度については、本研究は否定的であるところ、GPS型電子監視については、その有する雰囲気は異なると考えている。電子監視については、学会が存在し、電子監視が人権保障に資するように、そして再犯防止の効果が出るような方向で議論されている。その内容については、とりあえず措くとしても、対象者に対してポジティブな効果を与える方向で議論されており、その議論は傾聴に値する。また、性犯罪者の中には、拘禁を科すことが出来ないが、しかし、社会にいると危険である者もいる。同学会では、GPS型監視が再犯防止に有効であると考えられる対象者も存在することは繰り返し述べられてきた。そして、オランダ等では、GPS型監視の有効性が指摘されている。こういったことから、GPS型監視については、更なる検討・分析が必要であると考えられる。 そして、更に言えば、上述のようなカナダ型の性犯罪者処遇と、GPS型監視を組み合わせた場合の有効性については、完全に未知数であり、こういった分析が今後必要になると思われる。
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Causes of Carryover |
2014年度から2015年度まで在外研究を行った関係で、在外研究先のドイツにて研究を行い、ドイツでの調査旅費がほとんどかからなかったことと、それに伴い本研究に遅れが生じてしまった。そして、学内での業務の関係で、2016年度においては外国での調査としては、ラトビアのみとなってしまった。特に、最終年度で予定していたアメリカでの実態調査が出来なかったことから、予定していた予算の執行が出来なかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
予定していた3年間という研究年度を超えて(補助事業期間の延長を行うことによって)、アメリカ等の北米での調査を予定している。そして、そこで、旅費等を使用する予定である。また、研究期間の3年間のちょうど最後のあたりの時期に、本科研費の研究と完全に重なるテーマにつき、原稿(論文)の依頼を受けた。その論文の執筆のための研究資料として本科研費を使用する予定である。
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