2014 Fiscal Year Research-status Report
日本-ASEAN関係の構築:対日不信の制度的緩和に注目して
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26780103
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
井原 伸浩 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 准教授 (80621739)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 東南アジア五原則 / アジアにおける既存のバランスの維持 / 制度的拘束 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、1970年代の東南アジアにおける対日不信を、いかに日本政府は乗り越え、ASEANとの協力形成を図ったかを分析するものである。3年にわたって行われる本研究の初年度である平成26年度には、計画書に記載していた説明枠組みの構築を図るため、信頼理論に関する文献を読んだほか、以下の資料収集及びその分析を行った。(1)1977年の福田赳夫首相による東南アジア訪問に関する外交文書を収集し、その内容を整理し、検討した。とりわけ、日本政府が打ち出した経済援助の趣旨や、福田ドクトリンで示された「心と心」のふれあう相互信頼関係という理念が、どのような理由で生まれたかを分析した。(2)福田政権の外交に、田中政権期に形成された外務省による対東南アジア外交の原則が強い影響を及ぼしている形跡があることから、74年の田中角栄による東南アジア訪問と、その後の対東南アジア外交に関する外交文書を収集した。これに関しては、まだ開示されていない外交史料館文書もあるため、継続して文書開示請求中である。現在開示されている文書を分析した限りでは、田中政権期に打ち出された東南アジア五原則は、福田政権でも活かされているし、アジアにおける「既存のバランスの維持」という田中政権期に打ち出されていた外務省の理念も、福田外交でその諸要素が見られる。(3)先行研究では、福田政権以降の日本による対東南アジアの文化協力に関して手薄であるため、福田が打ち出したアジア文化基金に関する資料の開示請求を行い、それを収集した。さらに、(4)オーストラリアの外交文書館から、ASEANに関する外交文書を、オンラインで入手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の研究実施計画では、平成26年度に説明枠組みの構築を図ると記載している。実際、計画書の通り、信頼なき協力や不信の理論、国際政治の心理学的アプローチに関する研究、さらには、パワーの非対称性があるアクター間の協力に関する理論研究を読むことによって、本稿の説明枠組みが固まりつつある。すなわち、大国日本が、ASEAN加盟国を構造的に搾取できない協力の制度を形成することによって、ASEAN加盟国に対日不信があっても、日本との協力が可能になったとする議論である。さらには、「研究実績の概要」で示した通り、1970年代の、日本政府によるアジア外交に関する資料を中心として収集し、一部の分析を開始している。これらの作業によって、説明枠組みが実証研究でも通用するめどが立ちつつあるとともに、研究課題を別の側面から解明する着想も得られた。また、先行研究の検討も、ほぼ完了しつつある。 研究計画書に記載した全ての国の公文書館を訪れることができたわけではないものの、「おおむね順調に進展している」としている理由は、以下の二点である。第一に、資料を読み込んだ結果、70年代の東南アジアにおける対日不信の緩和を分析する際には、政治・安全保障面によるアプローチのみならず、文化協力やメディアを用いた東南アジアにおける日本のイメージアップ方策にも注視する必要性があると考えるに至り、それに関する資料収集およびその分析も進んでいるためである。第二に、そうした研究成果の一部を、既に研究会等で報告しており、その際にまとめたペーパーやプレゼンテーションの内容を基に、平成27年度半ばまでには、論文を学術雑誌に提出するめどがついているためである。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度も、これまでと引き続き公文書を中心とした一次資料の収集を行う。とりわけ平成26年度には行けなかった、イギリス、アメリカおよびオーストラリアの国立公文書館を訪れて、1970年代の対日関係や日本のアジア政策に関する資料を収集する。さらに、すでに開示申請を行っている田中角栄首相による東南アジア訪問に関する日本外務省の公文書が公開され次第、その収集および分析を開始することとする。ここで注目するのは、田中政権と福田政権の対東南アジア外交の継続性である。田中政権期の外交方針が、福田政権期にも活かされていたことを指摘することで、先行研究では、有効な対東南アジア外交を打ち出せなかったと指摘されることの多い田中外交を再評価したい。さらに、これらの文書が公開されたのちには、三木政権のタイ東南アジア外交についても情報開示を請求するが、これも外交の継続性を検討するという同様の目的を有している。 また、文化協力に関する分析を開始することとしたい。使用する資料は、これまで入手したASEAN文化基金に関する外交資料にとどまらず、文科省などほかの省庁に対しても情報開示請求を行うこととしたい。これは、文化外交を検討するうえでは、外務省の資料のみに頼ることができないためである。また、東南アジアにおける対日不信の緩和には、現地で経済活動を行っていた日系の民間企業による協力が大きく貢献しているため、これに関する資料の収集にもあたることとする。 研究成果に関しては、平成26年度にも一度研究報告を行っているが、27年度には、4月に名古屋大学大学院国際言語文化研究科附属グローバルメディア研究センターの第1回定例研究会で報告を行った。この報告の際に執筆したペーパーや、報告時に得られたコメントを基に論文をまとめて、名古屋大学の研究紀要や、『グローバルガバナンス』、『国際政治』など学術雑誌に掲載することを目指す。
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Causes of Carryover |
名古屋大学国際言語文化研究科に着任初年であり、海外の公文書館を訪問するまとまった日数を確保する余裕を持てなかった。そこで、初年度は、オーストラリアの公文書館からオンラインで資料を収集するとともに、外交史料館を中心とした国内での資料収集に注力した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度中に、26年度に行く予定だったアメリカとイギリスの公文書館に加え、オーストラリアの公文書館を訪れて資料収集を行うことで、研究費を使用する。
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Research Products
(2 results)