2014 Fiscal Year Research-status Report
アメリカにおける「ヒロシマ」の諸相‐国家・社会運動・被爆者
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26780270
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
根本 雅也 一橋大学, 社会学研究科, 特任講師 (00707383)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 記憶 / 戦争 / 平和 / 核兵器 / 移民 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、暴力の記憶のグローバル化の可能性と境界について探るため、アメリカにおける、広島・長崎への原子爆弾の投下及びその惨禍に対する意味の諸相を明らかにすることにある。この目的を達成するため、平成26年度は(1)アメリカ政府による原爆投下に関する公的な言説について整理するとともに、(2)アメリカに住む原爆被爆者(在米被爆者)の社会運動の歴史に関する資料収集及び聞きとり、および(3)在米被爆者個人の生活史についての聞きとり調査を実施した。 具体的な研究の成果として(2)(3)について以下記述する。(2)サンフランシスコにある米国原爆被爆者協会の関係資料及び関係者(サンフランシスコ・ベイエリアおよび広島市)への聞きとりから明らかになったのは、アメリカにおける被爆者運動の難しさであった。アメリカに居住する原爆被爆者という特殊な立ち位置が彼らを取りまく環境を複雑化させており、実際、彼らは当初アメリカに対して社会保障を求めていたが、その後、日本政府に対して要求を行うようになっていた。(3)在米被爆者個々人に対する聞きとりから浮かび上がってきたのは、日本の原爆被爆者との共通点と差異であった。日本に住む原爆被爆者と比べて、在米被爆者は、原爆による被害という点では大きな差異はなく、むしろ原爆による「心の傷」や放射線の影響に対する不安といった共通の苦難を抱えている。しかし、他方で、在米被爆者と日本に居住する被爆者との間には、被爆者を取りまく制度や周囲の人びとの態度といった様々な差異が存在していた。また、「在米被爆者」といっても、アメリカに来た経緯など、個々の被爆者が背負う文化的背景はそれぞれ異なっていることも明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
もともと平成26年度に予定していたのは、以下の三点である。(1)二次資料の収集・整理を通じて、アメリカにおける原爆投下に関する政府や軍関係者の主張について整理する。(2)在米被爆者の運動関係資料の収集を行い、その歴史的展開を解明する。(3)在米被爆者に対する聞きとりを行い、個々の生活史を明らかにする。 (1)については、今後も該当する資料の収集を継続していくことになるが、おおむね順調に実施できた。(2)についても、資料の収集及び聞きとりを実施し、在米被爆者運動の歴史的展開をある程度理解することができた。ただし、その整理と分析を一層進めていく必要がある。(3)に関しては、複数人に対する生活史調査を実施し、それぞれが異なる文化的背景(出自やアメリカに来た経緯など)を持つことを理解した。今後はこれまで調査を行った被爆者に対して聞きとりを継続し、さらに深く生活史を理解していくともに、より多くの被爆者にインタビューを行う必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的には、交付申請書に記載した内容に従って調査研究を進めていく。平成27年度は、まず、在米被爆者の社会運動の歴史の整理と分析を進めるほか、(1)サンフランシスコにおける在米被爆者の聞きとり調査を継続するとともに、(2)アメリカ東部を中心に、社会運動や地域のコミュニティにおける原爆被害の位置づけについて調査を実施する。そこでは、全国的な反核運動に関する資料収集を実施するほか、地域のコミュニティにおける原爆の意味を探るため、関係各地を訪れる予定である。それを通じて、アメリカの市民による、政府の公的な言説とは異なる「ヒロシマ」の意味と実践を明らかにする。また、(3)これまで集めたデータを整理分析しながら、本研究の成果の公表を行っていく。
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Research Products
(5 results)