2015 Fiscal Year Research-status Report
旧産炭地における地域社会教育の崩壊と再生に関する歴史実証的研究
Project/Area Number |
26780447
|
Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
農中 至 鹿児島大学, 法文教育学域教育学系, 講師 (50631892)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 社会教育 / 田川郷土研究会 / 仮説的な方法概念 / 穂波町 / 年鑑田川 / 低所得階層 / 炭鉱 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでの調査・研究から明らかとなったのは以下の諸点である。 近年、戦後社会教育史研究の蓄積は、地域史、学説史も含み着実に進みつつあるが、小川利夫がかつて提起した研究方法論に関する視点が現在の研究に適切に受け継がれているとは言い難い。その視点とは、1980年代初頭に小川が提起した戦後社会教育史研究における「仮説的な方法概念」の必要性というものである。今年度はこの議論の再活性化の必要を認識し、戦後の社会教育のあり方は地域の産業構造から強く規定されるかたちで推移してきたのではないかという「仮説的な方法概念」にもとづき、「地域産業と社会教育との関係史」の視点から産炭地社会教育調査(穂波町)の内容の検討を進めた。 その結果明らかとなったのは、旧産炭地・筑豊地域で実施された産炭地社会教育調査を通じて、低所得階層にとっての公的社会教育とはどのようにあるべきかという観点が明確にされていたという事実である。これまで戦後社会教育の主要な担い手が中間層であることはなかば自明視されてきたが、産炭地の事例からわかるのは、低所得階層の学習課題にどのように向き合うべきかという難問にはやくも直面していということである。 また、一方で、田川郷土研究会が1960年代の炭鉱の不況期に発行した資料『年鑑田川』(機関誌『郷土田川』の通号でもある)の分析を進め、炭鉱の不況期の社会教育の推移を明らかにしようと試みた。この資料は炭鉱社会の変貌を記録することを目的とされたものであったが、本誌における社会教育に関する記述は学校教育のそれに比べ、炭鉱の閉山や再編の明確な影響を読み取りにくい構成となっていたことがわかった。資料からわかったのは、再編・閉山期にもかかわらず逆に図書館活動・住民活動が活発化していく過程であった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
すでに収集済みの資料分析の成果も発表できており、新資料の発掘も随時進みつつある。新資料のなかには事前に設定した仮説を裏切る事実を記したものもあり、多くの今後探求すべき新たな研究課題がみつかりつつある。一定の体系性をもった方法論の確立を目指し、これまでの研究成果を踏まえつつ、問題提起的な研究成果も日本社会教育学会で発表できた。今後、継続してきた実証研究の成果を踏まえつつ、方法論に関する試論の発展を目指していく。また、さらに緻密な検討を要する研究課題もみえてきており、最終年度に向けてなすべき課題も絞られてきている。
|
Strategy for Future Research Activity |
初年度、今年度の研究成果を通じていえることは、実証的な研究成果が多い一方で、理論的・方法論的な研究成果がこれらに比して遅れている、少ないということである。もとより、歴史実証的な研究と理論的な研究の混合を目指したのが本研究が目指すところであるから、この辺りのバランスをいかにとっていくかが今後重要である。最終年度では引き続き、歴史実証的な研究も進めながら、理論的・方法論的な体系的な研究成果の発表を目指していくことにする。
|