2014 Fiscal Year Research-status Report
離散転位動力学を基礎とするマルチスケール多結晶転位塑性モデルの構築
Project/Area Number |
26790081
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
高橋 昭如 東京理科大学, 理工学部, 准教授 (00366444)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 離散転位動力学 / 均質化 / マルチスケール / 多結晶 / 弾性異方性 / 重ね合わせの原理 |
Outline of Annual Research Achievements |
3次元離散転位動力学に基づいた多結晶転位塑性モデルの定式化と実装を行った.具体的には,領域分割法を応用した重ね合わせの原理を用いて,多結晶中における転位の弾性場精度良く計算することを可能にし,更に均質化理論を応用することによって,多結晶材料のバルクな性質を計算することを可能にした.重ね合わせの原理の適用においては,有限要素法を用いて修正問題を解くことにより,容易に任意の形状の多結晶構造中の弾性場の計算を行うことが可能である. 開発した多結晶転位塑性モデルを用いたシミュレーションの入力データ作成を目的とした多結晶構造モデルの作成と自動要素分割システムの開発を行った.析出物の形成を模擬する方法として用いられていた分子動力学法に類似した方法を用いて結晶粒の位置(母点の座標)を決定した.その母点を用いて,ボロノイ分割法の一種であるRadical plane法により結晶粒の形状を決定した.これら2つの方法を組み合わせることによって,実験で測定されている結晶粒径の大きさや各結晶の粒界面の数などの分布を再現することが可能となった. 多結晶転位塑性モデルと多結晶構造モデルの入力データを用いて,多結晶金属の塑性変形解析を実施した.従来の離散転位動力学を用いた多結晶解析では不可能であった弾性異方性を考慮した解析を実施し,多結晶金属の塑性変形における弾性異方性の影響の評価を行った.弾性等方性を仮定した場合は,Schmid因子が高いすべり系のみの活動よって多結晶金属のマクロな塑性変形が起こるが,弾性異方性を仮定した場合は,低Schmid因子のすべり系も活動し,マクロな塑性変形が起こることがわかった.その結果,弾性異方性を仮定した場合の方が低い変形応力を与えることがわかった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成26年度の研究計画として設定した①離散転位動力学に基づく多結晶転位塑性モデルの定式化と実装,②多結晶構造モデルの作成と自動要素分割,③開発した手法のベンチマークの全てについて研究を遂行することに成功した. 多結晶転位塑性モデルの定式化と実装においては,研究代表者がこれまでに開発してきた離散転位動力学コード(主に析出物との相互作用解析に用いてきた)に,領域分割法による重ね合わせの原理の機能を追加することによって効率的に開発することに成功した.このため,離散転位動力学コードについてこれまでの研究実績があることから,その計算精度について詳細に検討する必要がなくなった.また,有限要素法についても研究代表者がこれまでに開発していた弾性解析用の有限要素法コードを利用することができたため,効率的にコードの開発を行うことができた. 多結晶構造モデルの作成においては,分子動力学法に類似した方法により母点座標を求めたが,研究代表者がこれまにで開発していた分子動力学法コードの原子間力の計算部分を修正することによって容易に実装することができた.さらにRadical plane法の利用については,そのアルゴリズムの簡便さから容易に実装することができた. したがって,これまでに研究代表者が開発したコードを応用し,更に用いるアルゴリズムの簡便さから,開発の期間の短縮に成功した. 以上の結果から,平成26年度の段階で多結晶金属の塑性変形解析を開始することができた.
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Strategy for Future Research Activity |
多結晶転位塑性モデルを用いた多結晶金属の塑性変形解析は,転位源から発生した多くの転位が粒界に堆積する.したがって,実用的な規模の材料シミュレーションを行うためには,結晶粒内で活動する転位に加え,粒界で堆積する転位を含めた転位間相互作用を全て計算する必要があるため,その計算コストは非常に高い.そこで,分散/共有メモリハイブリッド並列化を行うことによって,計算速度の高速化を図り,さらに実用的な多結晶の塑性変形解析を実現する.領域分割型の重ね合わせの原理を用いた計算では,結晶粒に含まれる転位間の相互作用は直接計算が必要であるが,異なる結晶粒に存在する転位間の相互作用は,重ね合わせの原理に基づいて計算されるため,直接計算する必要がない.そこで,結晶粒を単位とした領域分割を行い,各計算機の分散したメモリに配布する.結晶粒内の転位間の相互作用は共有メモリ型の並列化によって高速化を行う. 並列化した多結晶転位塑性モデルを用いた,多結晶の材料シミュレーションを行うことにって,弾性異方性が与えるミクロおよびマクロな塑性変形への影響を調べる.特に,結晶粒界付近に発生する内部応力に注目した転位源の活性化に関わる影響を詳細に調べる.また,多結晶転位塑性モデルの計算結果には多数の転位線が複雑に絡み合った状態であるため,その可視化には工夫が必要である.そこで,効果的な可視化を実現するために,可視化コードについても開発を行う.
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Causes of Carryover |
物品費として購入したワークステーションの価格や,旅費について見積もりを行った当時の価格からの変化により,差額が生じた.残額が13,348円と少額であるため,次年度に持ち越し,次年度の予算と合わせることによって,物品の購入に充てることとした.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度では,多結晶転位塑性モデルを使った多結晶金属の塑性変形解析を実施する.多結晶転位塑性モデルによるシミュレーションは時系列のシミュレーションのため,出力されるデータの容量が非常に大きい.このような大規模なデータを保存するためのストレージ(NAS)を購入する予定であり,その購入費用の一部として利用する予定である.
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