2015 Fiscal Year Research-status Report
4次元多様体上の安定写像とそれを用いた4次元多様体の図示法の研究
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26800027
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
早野 健太 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (20722606)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | レフシェッツペンシル / 4次元トーラス / 偏極つきアーベル曲面 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の主な目的は4次元多様体上の安定写像を介して、4次元多様体の大域的構造を調べる手法を確立する、というものである。前年度までは安定写像のみに着目し、その目的の達成を目指してきたが、今年度はレフシェッツ束やレフシェッツペンシル等の、安定とは限らない写像にも注目し、定義域の多様体上のシンプレクティック構造や複素構造などの幾何構造との関連も調べてみた。その結果以下に述べるように、ある特殊な状況において定義域の幾何構造が写像の微分位相幾何学的な性質を決定づけるということが判明した。 一般にレフシェッツペンシルが与えられると、その一般ファイバーの閉包を見ることにより、種数と可約度という非負整数値の不変量が定義できる。定義域が4次元トーラスの場合、これらはともに一般ファイバーの閉包が代表するホモロジー類から決まる不変量がある。本研究では種数が6以上あるいは可約度が2以上の2つの4次元トーラス上の正則なレフシェッツペンシルは、その種数と可約度が一致すれば同型になるということを示すことができた。一般には種数と可約度から同型類が決まるということはない、ということに注意しておく(実際Baykurとの共同研究において、種数と可約度が一致するが同型にはならないレフシェッツペンシルの例を与えている)。この結果は4次元トーラス上の複素構造が、その上の(構造に適合する)レフシェッツペンシルに多大なる制約を与える、ということを示唆するものである。なおこの結果の証明では偏極付きアーベル曲面のモジュライ空間の理論を援用しているが、その手法自体真新しいもので、当該分野が新たな方向へ発展を遂げるきっかけになるということも期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は可微分写像を介して、定義域である4次元多様体の大域的構造を理解するということであるが、それに対し今回得られた結果は4次元多様体上の複素構造がその上の(複素構造と適合する)可微分写像に制約を与える、ということを示唆するものである。この結果は一見4次元多様体の大域的構造の理解につながらないようにも思えるが、この結果の証明方法を他の多様体にも適用し、さらに写像類群によりレフシェッツペンシルをうまく構成することができれば、今後の研究の推進方策にもあるようにエキゾチックな4次元多様体の対の新たな例の発見や、ケーラーにはなり得ないシンプレクティック構造の例の構成につながるということが期待できる。このような事情から、当初の予定にはなかったものの、可微分写像を調べることにより4次元多様体を理解する、という目標には着実に近づいているということができる。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の研究では4次元トーラス上の正則なレフシェッツペンシルの同型類について調べたが、ここで用いた手法は4次元トーラス以外の複素曲面にも適用できるということが期待できる。そこで今後はまずこの手法を複素射影平面に適用し、その上のレフシェッツペンシルを分類するということを考える。具体的には以下に述べる手順で研究を進める。 まず複素射影平面上の正則なレフシェッツペンシルを4次元トーラスの場合と同様の方法で分類する。複素射影平面上の複素構造は唯一つであるということが知られているので、特に証明の際に考えるモジュライ空間が十分単純になるということが期待できる。これができれば次に非正則なものが存在するかどうかを考える。複素射影平面上のシンプレクティック構造も(定数倍の差を除いて)唯一つであるということが知られているので、そのようなペンシルは全て同じシンプレクティック構造に適合するということになる。このことを用いて複素射影平面上のレフシェッツペンシルの分類を試みる。 複素射影平面上のレフシェッツペンシルの分類ができれば、次に複素射影平面と同じ位相不変量を持つ多様体上のレフシェッツペンシルで、得られた分類結果に現れないものを、写像類群を用いて構成することを目指す。もしこのようなレフシェッツペンシルが構成できれば、分類結果からその全空間は複素射影平面とは同相ではあるが微分同相ではないということが結論づけられるが、そのような性質を持つ4次元多様体の存在は知られていない。
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