2015 Fiscal Year Research-status Report
超新星爆発から超新星残骸進化の3次元流体数値実験、重元素の起源とX線放射の解明
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26800141
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
小野 勝臣 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (50627180)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 理論天文学 / 宇宙物理学 / 計算物理学 / 超新星爆発 / 元素合成 / 超新星残骸 |
Outline of Annual Research Achievements |
比較的近傍の超新星残骸の観測, 特に特性X線の観測から鉄元素やシリコンなどの中間質量元素の空間分布が推定されているものがある. その中でも, Cassiopeia A (Cas A) はその分布が著しく球対称からずれており, その非球対称性の原因は分かっていない. 最近, Cas A の観測で進展があり, 長寿命放射性元素 44Ti からの崩壊ガンマ線が直接観測され, 鉄元素の特性X線の分布と44Tiからの崩壊ガンマン線の分布が異なっていることが分かった. これは球対称な超新星爆発では考えられないことであり, 何等かの原因でそれぞれの分布がずれて見えているはずである. この分布の不一致の原因として主に2つ考えられる. 一つは超新星爆発から超新星残骸へ至る過程で物質混合などにより, 鉄と44Tiの空間分布が本当に異なっているとするもの, 2つ目は, 逆行衝撃波によって加熱された部分のみが輝く鉄に対して, 崩壊ガンマ線のすべてが観測される 44Ti との見かけ上の違いである. これを理論的に確かめるためには, 超新星残骸からの特性X線を理論的に評価する必要がある. 今年度は電子とイオンの2温度の取扱い, 非平衡イオン化計算等を昨年度までに組み込んだ流体計算コードの実用可能性を確かめた. 計算には高解像度, 長時間計算できる数値的安定性, 計算資源の確保などいくつか解決すべき問題があった. これらの解決には困難もあったが, 今年度中に実用可能であることが確かめられた. また, 超新星残骸における非球対称分布の一因となり得る物質混合に関連して, 親星の大きな揺らぎが与える影響を調べた. 超新星残骸は粒子加速の現場とも考えられているが, 粒子加速には磁場の増幅が鍵である. そこで, 超新星残骸の磁気流体計算に昨年度から取り組んでおり, 数値的に divB = 0 を保証する方法を導入し, 実用可能性を確かめた. まだ, 数値的安定性に若干の問題があるが概ね問題は解決したので来年度から計算を本格化させたい.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
初期成果のための数値計算コードの開発は概ね昨年度までに終わっていたものの, 種々の物理過程を組み込んだ高解像度の数値計算において, 物理的に意味のある計算の解像度と長時間計算を行うためには, 数値的安定性の問題と計算資源の確保の問題が生じた. 流体計算にはよくある問題ではあるが, 数値的に非物理的な負の値が入ることによる計算のクラッシュが頻発し, 問題の解決に時間を要した. また, この問題は科学的成果を得るために解像度を上げた計算ほどよく起こったため, 問題の解決に時間が掛かった. また, 計算を主に行っているスーパーコンピュータがマシンのリプレイスのために数か月使用できない状態となり, リプレイス後は, これまでとシステムが変更となったため, 計算のための各種設定を一からやり直すこととなり, 足止めを余儀なくされた.
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Strategy for Future Research Activity |
1. 超新星残骸の非球対称性を解明するため, 各元素からの特性X線を評価するための電子・イオンの2温度, 非平衡イオン化を組み込んだ流体計算コードのテストはほぼ終了した. これから, 超新星爆発の非球対称性や, 流体不安定性による非球対称性が特性X線の分布に与える影響を調べる. また, Cas A の観測との比較からその非球対称性の原因を議論する. 2. 超新星残骸での r-process 元素の観測計画に活用するため, ジェット状の爆発で r-process 元素合成が実現するモデルをこれまでの申請者の計算をもとに構築する. これを初期条件として, いくつかの恒星風モデルを仮定した超新星衝撃波伝搬の2次元あるいは3次元計算を行い, r-process 元素の柱密度を評価する. 3. 超新星残骸での粒子加速に重要な磁場の増幅が流体不安定性によってどの程度誘起されるか複数の初期条件で調べる. その後, 粒子加速の効果を磁気流体計算コードに組み込み, 粒子加速と磁場増幅の非線形効果を理論的に調べる.
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Causes of Carryover |
初期成果を出すための数値計算コードの開発の大部分は前年度までに終了したが, 実際の計算で数値的安定性の問題が生じたことと, 効率良くデバックや計算行うための計算資源の確保が困難な問題が生じたため, 主な用途の予定であった, 計算データの保存を行うためのHDDやディスクアレイシステムを現段階で新たに導入する必要性がなかった. また, 研究成果も思うようにはあげられなかったため, 研究報告に関わる旅費や論文投稿費にそれほど支出がなかったためである.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度は、計算資源の問題で思うようにデバックや成果をあげるための計算ができなったため, 次年度では計算効率を上げるために占有してスーパーコンピュータを使用するための費用に一部をあてる. また, 数値的安定性の問題の解決の目途が立ったため, これからは研究成果をあげるための計算データを保存するためのHDDの費用等や研究成果報告のための費用に支出する.
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