2016 Fiscal Year Research-status Report
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26800177
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
多田 靖啓 東京大学, 物性研究所, 助教 (20609937)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | f電子系 / 超格子 / 磁性 / RKKY相互作用 / 近藤効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、主に、重い電子系超格子における磁性について研究を行った。前年度までに、この系における常磁性状態の近藤効果について研究を行っており、これと競合する反強磁性を理解することは基本的な問題である。また、同じく前年度には、磁気揺らぎと超伝導について弱相関領域からの摂動計算によって議論しており、28年度に行った研究はこれとは相補的なものである。具体的には、近藤格子模型を超格子上で考え、ハーフフィリングにおける反強磁性秩序の性質を動的平均場計算によって議論した。その結果まず、予想される通り、3次元近藤格子模型に比べて、超格子系ではスペーサー層である金属層の枚数を増やすに従って磁気秩序の強さは抑えられていくことが確認された。f電子層の間の有効的磁気結合は、スペーサー層の枚数に依存して反強磁性・強磁性の間を振動し、その強さは通常のRKKY相互作用よりも長距離的であり、層間距離の逆数で減衰する。このような振る舞いは近藤結合定数が小さいときに見られ、既存の磁性超格子と基本的にはよく似た振る舞いである。一方で強結合のときには、層間距離を増大させると臨界的層間距離が存在して、それ以上の層間距離では常磁性重い電子状態が形成される。加えて、この現象には、離れたf電子層の間におこる近藤効果の干渉も重要であり、f電子系超格子に特有の興味深い現象といえる。ただし、これらの結果は実際の実験に直接適用することは難しいため、今後、この研究では取り入れられていな効果などを考慮し、計算を改良していく必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成28年度は、本補助事業にも有益ではあるが異なる事業・長期海外出張にエフォートを向けたため、進捗状況は遅れてしまった。それら事業においては、技術的には長周期をもつ系の精密な数値計算方法を習得できたため、本事業においても適当な条件の下で、これまで以上の計算を行えるようになった。また、あわせて、非一様な系に関する新しい知見を得ることもできた。平成29年度は、これらの経験を活かし、「今後の研究」に述べる具体的問題などに取り組んでいきたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度は、f電子系超格子のハーフフィリング近傍における反強磁性と近藤効果の競合を研究したが、本年度は、これを強磁性状態へ拡張する予定である。近藤格子系では、フィリングが低いときには強磁性が実現するが、この強磁性状態は近藤系特有の電子相関効果を示すことが知られている。一方、磁性超格子では外部磁場によって強磁性状態を操作することによって、巨大磁気抵抗が得られることが知られている。このような背景から、f電子系超格子における強磁性は、反強磁性とは質的に異なる興味深い問題であると考えられる。本年度は、この問題について研究を行い、f電子系超格子と通常の強磁性超格子との類似点や相違点を明らかにしたい。さらに、f電子系超格子のような、複数の自由度が共存する非一様・長周期系について、これまでの知見を活かして新たな研究を進めたいと考えている。
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Causes of Carryover |
前述の通り、他事業の遂行・長期海外出張のために、本補助事業の遂行が遅れてしまっている。しかし、これらの事業で得た知見は本補助事業にも有益であり、それらを活かして本補助事業のさらなる遂行を目指すために、補助事業期間延長を申請し許可された。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
国内・海外共同研究者との研究打ち合わせのための旅費、およびコンピュータの購入などに使用する予定である。
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