2014 Fiscal Year Research-status Report
精密な構造決定・バンド計算による有機結晶でのキャリア輸送の理論的研究
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26810009
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
柳澤 将 琉球大学, 理学部, 准教授 (10403007)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 有機半導体 / ファン・デル・ワールス力 / 結晶構造 / バンド構造 / 飛び移り積分 / キャリア伝導機構 / GW近似 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、有機半導体結晶での分子間力を考慮した結晶構造の理論予測を、様々な有機結晶に対し進めた。 有機太陽電池の材料として注目される亜鉛フタロシアニン(ZnPc)について、実験的にAu基板上の薄膜で見られるalpha多形(a-ZnPc)は、格子定数が実験的に決まっていない。そこで、分子間力を考慮して格子定数を理論的に決めた。計算には、研究協力者が開発した密度汎関数(vdW-DF)を用いた。vdW-DFを用いた結果、最安定なbeta多形で、格子定数を1%以内の誤差で再現した。準安定なa-ZnPcについて、計算での最適化構造のもと、最大占有(HOMO)バンドの幅は64 meVと予測され、低温での薄膜の実験値(92 meV)に近くなった。得られた平衡構造付近で格子定数を0.01 nm程度ずらすと、バンド幅を支配する第一近接・第二近接分子間の飛び移り積分は数10meVのオーダーで変化した。分子間力を考慮した結晶構造の精密決定が、電子状態の再現・予測において重要であることが分かった[S. Yanagisawa et al., Phys. Rev. B 90, 245141 (2014)]。 典型的なアセン結晶(ベンゼン(1A)-ペンタセン(5A))でもテスト計算を行ない、上述のvdW-DFで、1-2 %程度の誤差で格子定数を予測・再現できることが分かった[S. Yanagisawa et al., submitted]。 結晶構造に加え、バンド構造の予測の精密化も進めており、高精度なバンド計算法(GW近似)でピセンの単結晶のバンド構造の予測に成功した。室温下でのバンド構造の実験値との比較から、バンド構造への電子-振動結合などの影響が重要であることが分かった[S. Yanagisawa et al., Jpn. J. Appl. Phys. 53, 05FY02 (2014)]。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
初年度は、分子間力を考慮した理論計算によって、有機半導体結晶の構造予測を進めることを主な目的としたが、研究協力者との連携のもと、高い信頼性を有する計算法を適用し、アセン系、フタロシアニン系など様々な結晶について高精度な構造予測に成功した。ここで確立した計算スキームは、次年度以降の研究計画でも大いに活用できる。また、高精度に予測された結晶構造下での電子バンドを正確に評価・予測する計算法(GW近似)も、上述の結晶系に対し適用を進め、結晶中の分子に由来する電子的性質や、電子-格子相互作用の影響を議論するのに有用であることが確かめられた。これらの成果は、本年度の研究目的に合致するものであり、今年度の目的は順調に達成されたと言ってよい。 上述の成果に加え、本年度はフタロシアニン系の理論研究をきっかけに、有機結晶中の分子軌道間の結合や飛びつり積分を評価するスキームの確立にも成功しつつある。このような電子状態の知見は、有機半導体中のキャリア伝導の性質に直接つながるものである。 これらの成果に関連し、有機-金属界面の電子状態や、有機半導体結晶のキャリア伝導を研究する実験家やグループとの共同研究も進めた。上述の理論計算法の適用によって、Ag表面上のピセン分子膜の構造決定[Y. Yoshida et al., J. Chem. Phys. 141, 114701 (2014)]をはじめ、実験結果の解釈に寄与する成果も出てきており、来年度もさらに展開していく見込みである。 以上から、本年度は、当初の研究計画の達成に加え、さらに研究を推進するための計算スキームの確立も達成され、実験家との共同研究も進んだ、という成果から、当初の計画以上に進展した、と言ってよい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、以下の点を中心に研究を推進する。 1. 結晶状態での、分子間の飛び移り積分を効率良く求めるスキームの効率化・応用 2. 高精度なバンド計算(GW近似)による、有機結晶の電子バンド構造・バンドギャップの評価 一点目について、初年度の亜鉛フタロシアニン結晶の研究では、分子間の飛び移り積分の評価に必要な局在軌道関数(ワニエ関数)の計算に成功した。しかし、数値計算では様々な試行錯誤を経ており、様々な有機結晶系への適用には計算スキームの効率化を要する。結晶中のワニエ関数を定義する理論・方法は、有機結晶系以外の物質でかなりの実績がある。いま、そのような実績・経験のある理論家とすでに共同研究を開始しつつある。この計算スキームの効率化は、有機半導体の結晶状態でのキャリア移動度の評価にもつながり、有機電子材料のより実際的な物性評価につながると考えられる。 二点目について、初年度に理論的に結晶構造を決定した有機半導体に対してバンド構造の精密計算(GW近似)を進め、バンド構造の形成を支配する構造的要因の特定を行う。これまでのように、占有バンド構造を実験値と比較・検討するだけでなく、最近報告例が増えてきた逆光電子分光法による非占有準位にも注目する。バンドギャップ・電子親和力・分極エネルギーの傾向を、代表的な有機半導体の結晶多形・薄膜について検討し、太陽電池や電界発光素子の電子輸送層物質の基礎電子物性の理解に寄与する。 近年の計算機資源・アルゴリズムの進歩で、GW近似でも数100原子からなる有機単結晶の単位格子を計算できるようになってきたが、より現実材料に近い物質系の精密計算に向け、計算機のタイプや並列度に向けたプログラムの効率化も、研究協力者と議論しつつ進めていく。
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Research Products
(12 results)
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[Journal Article] Scanning tunneling microscopy/spectroscopy of picene thin films formed on Ag(111)2014
Author(s)
Yasuo Yoshida, Hung-Hsiang Yang, Hsu-Sheng Huang, Shu-You Guan, Susumu Yanagisawa, Takuya Yokosuka, Minn-Tsong Lin, Wei-Bin Su, Chia-Seng Chang, Germar Hoffmann, and Yukio Hasegawa
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Journal Title
Journal of Chemical Physics
Volume: 141
Pages: 114701-1-8
DOI
Peer Reviewed
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