2015 Fiscal Year Research-status Report
精密な構造決定・バンド計算による有機結晶でのキャリア輸送の理論的研究
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26810009
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
柳澤 将 琉球大学, 理学部, 准教授 (10403007)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 有機半導体結晶 / ファン・デル・ワールス(vdW)相互作用 / キャリア輸送 / バンド構造 / vdW密度汎関数 / GW近似 / 構造歪み |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、まず5種類のオリゴアセン結晶(ベンゼンからペンタセン)の構造最適化計算を行い、昨年度の研究から適用してきたファン・デル・ワールス密度汎関数(vdW-DF)が、有機半導体結晶の構造や結晶多形の安定性を高い信頼性で予測できることを確認した[S. Yanagisawa et al., J. Electron Relat. Phenom. 204, 159 (2015)]。そのように精密に決定した結晶構造に対して電子バンド構造を正確に評価すると、低温の紫外光電子分光の状態密度実験値とよく一致し、従来の精度の劣る計算法で再現できなかった、結晶多形の違いによりバンド構造やバンドギャップが変化する様子や、振動効果の考慮の有無によって格子の熱膨張の影響を再現できることを見出した[S. Yanagisawa and I. Hamada, submitted to J. Chem. Phys.]。さらに、高精度なバンド構造の再現(GW近似)により、有機半導体では、孤立分子と単結晶とで電子間ポテンシャルが遮蔽される効果が著しく異なることも、理論的に再現した[S. Yanagisawa et al., J. Chin. Chem. Soc., in press]。有機半導体に構造歪みを印加した際の結晶構造を理論的に再現し、その結晶構造下でバンド構造を予測した。そのデータをもとに、実験的に観測された構造歪み下での正孔移動度の向上の理論的解釈に貢献することができた[T. Kubo et al., Nat. Commun. 7, 11156 (2016)]。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
準安定な結晶多形が多く存在する有機半導体結晶において、前年度の研究よりも高度な理論計算法を駆使することで多形の違いによるバンド構造・バンドギャップの違いを再現し、結晶構造と電子構造の関係について新たな知見を得ることができた。また、vdW密度汎関数を駆使し、格子振動の効果を考慮した結晶構造の最適化計算のスキームについても習熟できた。これで、一般に室温下での熱膨張を伴う実験の結晶構造との比較が容易になり、今後、実験で観測される電子構造やキャリア輸送特性を支配する結晶構造の要因について、より理解を深められると考えられる。 GW近似を用い、孤立分子中と結晶中とで電子間ポテンシャルの遮蔽の効果に大きな違いがあることを確認できた。この知見は、実験や実物質での有機半導体結晶の表面や界面での電子注入準位がどう変化しうるかについての洞察を与えるもので、今後、より実際的な表面や界面での基礎電子物性の正確な評価につながりうる。 実験家との共同研究も結晶構造と電子状態との関係をキーワードに進めた。当年度は、構造歪みを加えて有機半導体単結晶の構造と電子状態を理論的に再現し、実験的に報告された構造歪み下での正孔移動度の向上の原理を説明する成果につながった[T. Kubo et al., Nat. Commun. 7, 11156 (2016)]。 以上から、本研究の中心である、精密に予測された結晶構造と電子構造との関係についての新たな知見と、有機半導体材料に近い物質系の基礎物性に関する実験的知見の解釈に貢献できたという点で、当年度の研究の進展は順調であると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでよりも詳細に結晶構造と電子状態の関係を明らかにするため、有機半導体表面や界面での電子準位の高精度な予測計算を展開する。近年、光電子/逆光電子分光法によって占有/非占有準位を実験で正確に決定することが可能になり、測定対象の表面の面方位などによってどのように変化するか、に焦点が当てられつつある。しかし、有機半導体表面の詳細な構造特定は実験的に容易ではないので、本研究で用いる理論手法で表面の構造と電子状態の両方を精密に決定し、実験結果の理論解釈に寄与することを狙う。 もう一点は、やや難しいテーマだが、電子-格子振動(e-ph)結合のバンド構造への影響を理論的に記述するための計算スキームの確立を目指す。有機半導体は、無機半導体に比べ、一般にバンド幅も0.5 eV前後と小さく、e-ph結合の影響がバンド幅やバンド分散に無視できないほど現れることが報告されている。e-ph結合の理論的評価は、バンド構造・バンドギャップの精密化とは独立に発展しており、それらを結合させた計算法も存在するが、主に計算機資源が問題となることが多く、有機半導体系ではあまり適用が進んでない。この問題について、今年度は、まずは別々に計算されたバンド構造に、それと別に計算されたe-ph結合の寄与をどう取り込むことができるか、を考えることから始める。それを出発点にし、どのような計算法が必要かを考察する。新たに計算方法を確立できれば最善であるが、それは一般に1年未満の期間では容易でない。そこで、今後のより高度な理論手法の確立に向けた知見を得るだけでも、成果としては十分と考え、今後研究を進めていく。
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Causes of Carryover |
当初、海外の国際学会参加の旅費を執行する予定だったが、旅費以外の物品費への支出が多くなって海外出張の旅費が足らなくなり、予定を変更して国内の学会参加にしたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
海外の国際学会参加の旅費に充てる。
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Research Products
(12 results)
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[Journal Article] Suppressing molecular vibrations in organic semiconductors by inducing strain2016
Author(s)
T. Kubo, R. Haeusermann, J. Tsurumi, J. Soeda, Y. Okada, Y. Yamashita, N. Akamatsu, A. Shishido, C. Mitsui, T. Okamoto, S. Yanagisawa, H. Matsui, and J. Takeya
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Journal Title
Nature Communications
Volume: 7
Pages: 11156-1-7
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Acknowledgement Compliant
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