2014 Fiscal Year Research-status Report
シリサイドおよびナノ物質を用いた高効率排熱発電材料の理論解析とモデリング
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26820099
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
平山 尚美 東京理科大学, 基礎工学部, 助教 (70581750)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 熱電効果 / 第一原理計算 / 不純物ドープ効果 / 格子定数 / 不純物サイト / 擬ポテンシャル法 / FLAPW法 / KKRグリーン関数法 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、加速するエネルギー資源の枯渇および環境汚染の現状を踏まえ、クリーンエネルギー技術の一つである熱電発電の本格的な導入が望まれている。しかし、現状では材料開発研究を効率的に展開するための基盤となる理論的枠組みが不足しており、既存の熱電材料の性能向上は実験による試行錯誤に頼る部分が大きい。そこで、本研究では、発電効率のみならず環境面でも優れた特長を有する新規熱電物質の探索と設計を目的とし、材料開発研究の指針を与えるような理論的手法の開発を行っている。初年度は環境負荷の少ないシリサイド系熱電物質を対象として、以下の課題に取り組んだ。 【課題1】不純物添加時の結晶構造の変化を扱う計算科学的手法の検討 【課題2】安定かつ高性能な不純物ドープ熱電物質の探索 【課題3】実験との比較による理論的手法の妥当性の評価 本テーマを推進する第一歩として、環境規制および希少資源対策の観点から、毒性を持たず、構成元素が地殻中に豊富に存在し、軽量かつ安価といった特長を有するマグネシウムシリサイド(Mg2Si)に着目した。【課題1】では、Mg2Si結晶の構造特性に対する不純物添加の寄与、すなわち格子定数の変化と局所的な原子位置のずれ、および安定な不純物サイトを、第一原理計算に基づいて解析した。計算手法による違いを明らかにするため、擬ポテンシャル法、FLAPW法、KKRグリーン関数法による計算結果を比較した。その結果、定性的な不純物ドープ効果はこれらの計算方法によらない事が示された。これを踏まえ、【課題2】では各手法を活用し、作製が困難な場合の多いp型Mg2Siの安定構造について考察した。【課題3】では、実験データとの比較により、本理論的手法の精度について調査した。構造特性の直接的な比較は実現していないものの、輸送特性の計算結果は実験を定量的に再現し、本理論モデルの妥当性を示すことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本テーマでは、高性能かつ環境負荷の少ない新規熱電材料の探索と設計を目的とし、理論研究を行っている。3つの条件(高い熱電効率、環境規制、希少資源対策)を主軸に据えたマテリアルデザインを目指して、環境半導体Mg2Siへの不純物ドープ効果を理論的に解析した結果、次の成果を得た。
【課題1:構造特性に対する不純物ドープ効果の解析手法の確立】第一原理計算に基づく3つの計算コード:擬ポテンシャル法によるQuantum Espresso、Full-potential Linearized Augmented Plane-Wave法によるABCAP、およびKKRグリーン関数法によるMachikaneyama(Akai KKR)は、定性的に同じ結果を与えることを明らかにした。また、昨年度までの課題として、実際の添加不純物の量(~数原子%オーダー)を定量的に扱う理論的手法の確立が求められていた。しかし、super cell法では不純物濃度が低くなるほど計算負荷が増加する事から、本研究ではrigid band近似による計算手法を導入した。 【課題2:安定なp型Mg2Siの探索】第一原理計算により構造特性への不純物添加の影響調査を行い、p型Mg2Si結晶のエネルギー的安定性について議論した。ドーパントとしてNa, Bを添加した場合について、形成エネルギーと不純物サイト(Mg, Si置換および格子間侵入)の占有率を求めた結果、Bが有望なp型ドーパントであることが示唆された。 【課題3:実験データとの比較】不純物ドープ系の構造に関する実験データが不足していることから、現状では理論計算と実験との直接比較ができない。そこで、まず輸送特性について比較した結果、 rigid band法による計算は、実験で得られたゼーベック熱起電力の温度依存性を非常に良く再現した。
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Strategy for Future Research Activity |
【課題1:構造特性に対する不純物ドープ効果の解析手法の確立】 ① これまでの研究により、rigid band近似に基づく計算手法が不純物ドープMg2Si系の解析に有効であることが示されたため、今後はこの手法をさらに改良する。現在、計算コードABCAPを用いて、全電子状態計算から求められた電子状態に対しBoltzmann方程式を適用することでゼーベック熱起電力の計算を行っているが、緩和時間の温度依存性を考慮できるように計算コードを改良し、さらに幅広い系に応用できる計算方法を確立する。② 結晶格子の欠陥(Mgの格子間侵入やMgとSiの相互置換)を考慮し、より現実的な結晶構造を基に構造特性および輸送特性の計算を行う。 【課題2:安定なp型Mg2Siの探索】 これまでの研究でBが有望なp型ドーパントであることが示唆されたが、さらに安定なp型Mg2Si系物質を探索する。具体的には、① 他のドーパントについて調査する。②系の安定性を向上させる方法として、複数のドーパントの同時添加を検討する。 【課題3:実験データとの比較】 今後は構造特性の理論解析結果と実験データの比較を進める。① XRD測定の結果から、不純物ドープ時の格子定数変化と不純物サイトの占有率を求め、本理論モデルによる計算結果と比較する。② Hall測定の結果から、不純物サイトの占有状態と不純物の活性化率を調査し、計算結果と比較する。③ 緩和時間の温度依存性を考慮したゼーベック熱起電力の計算結果を実験データと比較し、本理論モデルの妥当性を評価する。
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Causes of Carryover |
研究に使用する計算プログラムに変更があったため、当該年度に予定していた計算用コンピューターの購入を見送った。メインとなる計算手法が変わる場合、計算機に求められる性能も異なる。したがって、購入する計算機の性能について、詳細に検討し直す必要があった。すでに必要な計算機についての検討を終えたので、次年度に繰り越して計算環境の整備に使用したいと考えている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当該年度から繰り越しが認められれば、翌年度分と合算して、当初の使用計画にあったコンピューターの購入に使用する。本研究のテーマである不純物ドープ系熱電物質の構造特性および輸送特性について、高精度な計算を実施するため、全電子計算に適した科学計算用コンピューターを購入する予定である。
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Research Products
(6 results)