2014 Fiscal Year Research-status Report
ダイヤモンド状炭素膜の面内ヘテロ構造化による高耐久性テクスチャード金型の開発
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26820327
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
清水 徹英 首都大学東京, システムデザイン学部, 助教 (70614543)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | マイクロ加工 / ドライ加工 / 表面テクスチャリング / ダイヤモンド状炭素膜 / マイクロ金型 / ヘテロ構造 / 耐摩耗性 / ボールオンディスク試験 |
Outline of Annual Research Achievements |
全体の研究目標に対し,初年度は①面内ヘテロ構造の創製手法の確立と②その摩擦・摩耗評価装置の設計・製作を大きな研究目的として研究を遂行し,以下の研究実績を得た. 1. 各種プロセス条件と膜特性との関連性の解明:本研究で提案した面内ヘテロ構造の創製法において,プロセスパラメータとして,PECVDプロセスでは,ガス流量・バイアス電圧,RIEプロセスでは,酸素ガスによるエッチング速度の検証,IPVDプロセスでは,イオン化蒸着における,アノード電流値,ガス流量およびバイアス電圧に着目し,得られる幾何構造およびDLC膜の膜特性との関連性を明らかにした. 2. 面内ヘテロ構造を有する軟質/硬質相DLC膜の作製:面内ヘテロ構造創製の実現可能性の検証として,1.で選定した諸条件により,実際にメタルマスクを用いてヘテロ構造を作製した.その結果 RIEプロセスにより作製した微細孔パターン内にIPVDにて硬質相DLCを精度良く成膜するためには,イオン化蒸着源からのイオンが基板に垂直入射することおよび,メタルマスクが基板に密着していることが重要であることを明らかにした.上記を踏まえた再検証により,面内ヘテロ構造を有する軟質/硬質相DLC膜の作製に成功した. 3. 面内ヘテロ構造化DLC膜の基礎摩擦・摩耗特性の解明:上記で作製した面内ヘテロ構造を有するDLC膜の基礎摩擦摩耗特性を検証するため,ボールオンディスク式摩擦摩耗試験による評価を行った.その結果,面内ヘテロ構造を付与していない従来のDLC膜では,μ=0.18-0.2程度の摩擦係数が得られたのに対し,面内ヘテロ構造膜はμ=0.15のより低い摩擦係数を示した.また,5万回転の耐久性試験においてはヘテロ構造を有するDLC膜では,5.56 × 10-16 m3/N・mの優れた耐摩耗性を示した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
全体の研究目標に対し,初年度は,①面内ヘテロ構造の創製手法の確立と②その摩擦・摩耗評価装置の設計・製作を当初の研究計画とした. これに対し,①の面内ヘテロ構造の創製手法の確立では,各種プロセス条件の選定は計画通りに遂行された.しかし構造作製において選定した条件は,本年度は所定の一条件のみに留まった.今後は硬度比および構造寸法の異なるヘテロ構造膜を作製していくため,他のプロセス条件による組み合わせの可否についても検証を深める必要がある. 一方②の摩擦摩耗評価装置の設計・製作においては,当初はゼロから新たに設計製作を行う予定であったが,先行研究(H24-H25年度 科研費 若手B「テーラードテクスチャリングによるマイクロ精密異形プレス加工のメゾトライボ特性制御」)において作製したマイクロハット曲げ試験機をベースに,設計変更および改造を行ったため,当初の計画よりも効率的に再設計および追加工,予備実験等を行うことができた.本研究では,特にマイクロハット曲げにおける金型ダイ肩R出口部付近におけるクリアランスをさらに極小化し,しごき加工における接触状態を再現し,より面圧の高い接触条件下における検証が可能となった.同検証では擬似摩耗粉を用いた検証によりその場観察の有用性が示されており,次年度計画におけるヘテロ構造の有効性検証の足がかりとして有用な知見が得られている. 以上のように,軟質/硬質相が面内配置されたヘテロ構造の実現可能性およびその有効性が示されており,年度当初に計画した上記2項目は計画通りに進展していると言える.
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Strategy for Future Research Activity |
ボールオンディスク摩擦摩耗試験機および初年度に開発したトライボ試験システムを用いた各種面内ヘテロ構造表面の摩擦・摩耗特性の解明とその実加工における有用性の検証を主目的として,以下の通りに研究を遂行する. 1. 各種面内ヘテロ構造の構造特性(異種材料間の硬度比・相対面積比・膜厚比等)と摩擦・摩耗特性との関連性の解明:金型の長寿命化を実現する最適構造設計を行うため,ボールオンディスク摩擦摩耗試験により,金型の耐摩耗性に及ぼす影響因子として以下に着目して検討を行う。(1) 硬質/軟質相の摩耗進展過程,(2) 被加工材の摩耗粉発生・移着・堆積発達過程,(3) 被加工材の摩耗粉のテクスチャ凹部捕捉量の変化. 2. 面内ヘテロ構造膜の実加工における有用性の検証:上記で構造設計をした数種のヘテロ構造膜における金型の摩耗粉の発生・移着・堆積過程に対してその場観察を行い,上記構造設計の妥当性の検証を行う.さらにその実耐久性を検証するため,超硬製の金型にヘテロ構造を成膜した金型を用いて,順送式連続マイクロしごき加工実験を行う.テクスチャを付与していないDLCコーテッド金型および従来のテクスチャ表面金型との比較検討により,本研究により開発したヘテロ構造膜の優位性と実耐久性を評価する. 次年度の研究費の使用計画としては,まずその場観察型しごき加工試験中の成形荷重の測定を実現させるため,現状の試験機の改良を行う.その際の金型の追加工費用を消耗品費より計上する.また,DLC成膜・酸素プラズマエッチングに要する各種消耗品の諸費用およびメタルマスクのレーザー加工費用を消耗品費より計上する.また,ここで得られた成果に関して,国内旅費・外国旅費を用いて,国内外の学会に参加し成果報告を行う.さらに本年度同様,次年度の残額を用いて論文投稿も行う.謝金等により本論文投稿に当たる英文校閲も依頼する.
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Causes of Carryover |
摩擦摩耗評価装置の設計・製作において,当初は新たに設計製作を行う予定でその試験機製作費を計上したが,前述の通り,先行研究において作製したマイクロハット曲げ試験機をベースに,設計変更および改造を行うことが出来たため,当初の計画よりも効率的に再設計および追加工,予備実験等を行うことができた.そのため,当初予定していた本年度の予算額を下記の使用計画に基づいて次年度分として請求することにした.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
初年度に改良したその場観察型マイクロしごき加工試験機では,成形荷重の測定が実現できなかった.そこで,まず金型内に現有の500Nのロードセルの設置を可能とするために,試験治具の追加工を検討し,その外注委託費用を消耗品費より計上する. またヘテロ構造作製に必要となるメタルマスクの作製において,金型との密着性を向上させるため,柔軟性の高い極薄箔材に対してフェムト秒レーザー加工で製作する予定である.当該外注製作費を消耗品費より計上する予定である(尚,当該費用は高額になることが予想される). その他,初年度同様ヘテロ構造作製のためのDLC成膜・酸素プラズマエッチングに要する各種消耗品(アノード電極,フィラメント電極,洗浄機材,ポンプ消耗品,各種ガス他)の諸費用を消耗品費より計上する.
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