2014 Fiscal Year Research-status Report
ビタミンB12を感光色素とする新規光センサーの構造機能研究
Project/Area Number |
26840027
|
Research Institution | Institute for Molecular Science |
Principal Investigator |
村木 則文 分子科学研究所, 生命・錯体分子科学研究領域, 特任助教 (20723828)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 結晶構造解析法 / ビタミンB12 / センサータンパク質 / 光応答 |
Outline of Annual Research Achievements |
ビタミンB12(アデノシルコバラミン)が高い光感受性をもち、光分解することは50年以上前から知られていた。しかし、ビタミンB12を感光色素とするセンサータンパク質の存在は近年まで明らかでなかった。2011年に含コバラミン転写因子CarH/LitRが光センサーとして機能することが報告されると、2014年にはヒドロキシコバラミン結合タンパク質AerRが転写因子CrtJと相互作用することで転写制御に関わることが報告された。いずれも構造生物化学的知見に乏しく、コバラミンの光依存的な構造の変化が転写調節をもたらす一連の情報伝達メカニズムは全く不明である。本研究では、エックス線結晶解析法によってCarHとAerRの立体構造を決定し、光応答に伴う動的な構造変化を捉えることを目指している。 2014年度はThermus thermophilus 由来CarHとMyxococcus xanthus 由来CarH、 Rhodobacter capsulatus 由来AerRについて、組換え大腸菌を利用した大量発現系を構築し、結晶化に向けた試料調製を検討した。T. thermophilus 由来CarHを大量調製する系は確立されており、結晶化に適した高い純度の試料を十分量調製することができた。次に、精製試料を用いて網羅的に結晶化条件を検討した。市販のスクリーニングキットを用いた数条件から微結晶を作製することに成功した。現在、良質な結晶を得るための結晶化条件の最適化を進めている。 M. xanthus 由来CarHと R. capsulatus 由来AerRについて、複数の組換え大腸菌発現系を検討した。その結果、Flag-Acidic-tagを用いた発現系で可溶性画分への目的タンパク質の発現が確認できた。最終精製産物の収率が非常に低いため(大腸菌培養液1Lから0.1mg以下)、結晶化条件の検討には至っていない。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
T. thermophilus 由来CarHの大量調製系は確立できていたが、本年度は陰イオン交換クロマトグラフィを取り入れて、高い純度の精製CarHを再現よく調製できるようになった。当初の計画通りにCarH単量体の結晶化条件のスクリーニングを行ったが結晶は得られなかった。そこで、アデノシルコバラミン結合型CarH四量体を調製して、結晶化条件のスクリーニングを展開した。CarHはアデノシルコバラミンを感光色素として不可逆的に光応答して、四量体から単量体へ解離する。そのため、アデノシルコバラミン結合型は暗所で取り扱う必要がある。暗所における網羅的な結晶化条件のスクリーニングの結果、当初は困難が予想された光反応前のCarH四量体の結晶化に成功した。光受容体タンパク質の研究において、光反応前の結晶構造は反応機構を知る上で極めて重要である。CarH四量体の結晶化に成功したことは、初年度の成果として十分であると言えよう。 M. xanthus 由来CarHは先行研究において封入体として得られることが報告されていたが、本研究では大腸菌体内における可溶化と単離精製に成功しており、初年度の目標に到達している。現在、スクリーニングを進めている。また、当初の研究計画に加えて、新規な含ビタミンB12光受容体タンパク質であるR. capsulatus 由来AerRの構造研究も開始した。結晶化条件のスクリーニングには不十分な収量ではあるが、AerRの単離精製に成功している。 以上の点から、初年度は当初の計画以上に進展していると言えるだろう。
|
Strategy for Future Research Activity |
T. thermophilus 由来CarH四量体の結晶が得られたので、より大きな単結晶の作製に向けて結晶化条件の最適化に取り組んでいる。2015年度の早い段階で放射光を利用した回折実験を行い、CarH四量体結晶の回折強度データを収集したい。良質な高分解能の回折強度データを収集するには、極低温測定のための抗凍結条件を検討する必要があり、回折実験に並行して抗凍結条件の検討を進めたい。良質な回折強度データが得られれば、位相計算・構造計算を進める。 アデノシルコバラミン結合型CarH四量体の取り扱いに成功したので、アデノシルコバラミン-CarH-DNAの三者複合体を調製し、結晶化することが次の目標である。 M. xanthus 由来CarHは可溶性画分に発現させることに成功したが、収率が低い。アフィニティタグを利用した精製方法を複数種類試したが、いずれも吸着が弱いため、より良い精製手法の探索が必要である。また、M. xanthus 由来CarHは大腸菌培養液にビタミンB12を添加することでビタミンB12結合状態を形成することがわかった。ビタミンB12の吸収を捉えることで、より効率的な精製手法を探索する方針である。 R. capsulatus 由来AerRもM. xanthus 由来CarHと同様に収率は低いが、アフィニティ精製によって高純度の試料が得られている。実験系をスケールアップすることで結晶化に十分量の試料を調製可能となるだろう。また、目的タンパク質の発現量は豊富であることが電気泳動の結果からわかっており、可溶化しているがアフィニティタグに吸着しないタンパク質が多い。大腸菌培養法の改良も行う。
|
Causes of Carryover |
本年度は所属研究室において購入済みの試薬を用いたタンパク質精製と結晶化条件のスクリーニングを主として行ったため、物品費が計画よりも抑えられた。また、研究課題で対象としたタンパク質の結晶が得られなかったため、SPring-8における実験回数が少なかったことも一因である。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度の後半に結晶化条件のスクリーニングによって結晶が得られた。来年度はSPring-8におけるエックス線回折実験やタンパク質-DNA複合体調製に向けたDNA合成などに支出が増える見込みである。
|