2017 Fiscal Year Annual Research Report
The Formation of writer identity in transnational literature - on the attempts of Milan Kundera
Project/Area Number |
26870248
|
Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
ローベル 柊子 (田中柊子) 静岡大学, 情報学部, 准教授 (20635502)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 越境文学 / 翻訳 / 外国語執筆 / アイデンティティ / ミラン・クンデラ / 世界文学 / ローカル / 多言語・多文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、多言語で執筆している越境作家に注目し、移住による環境の変化や外国語執筆がもたらす越境状態、すなわち自分の出身地と移住先の複数の文化・複数の言語間に身を置きながら、どのように作家としてのアイデンティティや創作のスタイルを定めていくのかを論じることを目指した。 最終年度である本年度は、研究実施計画に沿って他の研究者との意見交換および成果発表のためにワークショップを開催した。当初は海外から研究者を招いてのシンポジウムを計画していたが、予算や会場の問題があったため、規模を縮小し、日本フランス語フランス文学会秋季大会においてワークショップ「越境作家の外国語執筆とアイデンティティ」を行った。ミラン・クンデラ、サミュエル・ベケット、ウラジーミル・ナボコフ、アンドレ・マキーヌのケースについて4人のパネリストがそれぞれ発表を行い、質疑応答の時間では世界文学や普遍性の概念、越境文学におけるエキゾチズムやフォークロリックなもの、移民文学の台頭がもたらしうる翻訳文学の排除、越境作家の世代間における文学スタンスの違いなどについて活発な議論が交わされた。 また、研究実施計画に記載した事項として、本研究におけるクンデラについての成果を著書『ミラン・クンデラにおけるナルシスの悲喜劇』(成文社、2018年3月)の中で公開した。 グローバル化の時代に国家、言語、文化の枠組みを越えて活躍する作家のアイデンティティを考察することが本研究の目的だったが、本年度を含めた研究期間を通じて、越境文学におけるローカルなもの、すなわち特定の地域に根差した要素の重要性が浮かび上がってきた。故郷や母語、自文化を外から見つめる眼差しをもつ越境作家が自らが生きる/生きた土地とどのような関係性を持つのか、フィクションの中で描く世界の地域性はいかなるものかなど今後は越境文学を「地詩学」的な視点から捉える研究を進めていきたい。
|
Research Products
(2 results)