2014 Fiscal Year Research-status Report
有尾両生類における種分化と種間干渉:種の形成とその維持機構の解明に向けて
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26870320
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Research Institution | National Museum of Nature and Science, Tokyo |
Principal Investigator |
吉川 夏彦 独立行政法人国立科学博物館, 分子生物多様性研究資料センター, 特定非常勤研究員 (60726892)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ハコネサンショウウオ属 / 種認識機構 / 交配前隔離 / 交配後隔離 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はまずハコネサンショウウオ属の種間関係を遺伝的に明らかにするうえで不可欠である遺伝マーカーの開発に着手した。次世代シーケンサーを用いたショットガンシーケンシングににより、日本産のハコネサンショウウオ属で使用可能な複数座のマイクロサテライトマーカーを開発した。これにより、本属の種間関係を分子生態学的に明らかにする技術的基盤が整い、現在これまでに採集したサンプルのジェノタイピング作業を進めている。 また同時に本研究の柱の一つでもある交配後隔離機構としての幼生期間の種間干渉を明らかにするための室内実験系の検討も行った。まず長期飼育が難しいとされてきた本属の幼生の飼育法を確立した。さらに、共食い(もしくは種間食い)の可能性を評価するための最適な実験手法について検討を行い、現在順調に実験を重ねている。 交配前隔離機構を明らかにするための繁殖成体の対面実験においては、今年度は狭義のハコネサンショウウオ(以下狭義ハコネ)の成体しか得られなかったため、これを用いて飼育および対面実験の条件検討を行い、次年度のシーズンに備えた。 野外調査においては、福島県内において、狭義ハコネとバンダイハコネサンショウウオ(申請時点での東北南部型隠蔽種。以下バンダイ)の分布境界近傍に、ハコネと同所的に生息する新種タダミハコネサンショウウオ(以下タダミ)を発見した。この種は系統的にバンダイに近縁であったことから、互いに近縁でありながら狭義ハコネに対する生態的関係が異なる(側所的 vs 同所的)、よりモデル化しやすい実験系となりうると考えられた。そのため、幼生の種間関係の実験においてはハコネとタダミも同所的種間のモデルとして検討することとし、今年度は重点的に福島県内で分布・生態調査を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
年度当初に異動があり、所属が変更になったため研究環境の立ち上げがやや遅れたものの、飼育設備やDNA実験の環境が良好だったためその後の研究の進捗は良好であった。また、主要な調査地の一つである福島県へのアクセスが良くなったため、この地域における調査は非常に順調に進んだ。研究対象とする種に新たにタダミハコネサンショウウオが加わったが、この調査地へのアクセスは容易であり、、元々予定していた他の調査地にも近いため、こちらの進捗も良好である。ただ、成体の繁殖期のサンプリングが十分でなく、次年度に向けての対面実験の条件検討がやや不十分であった。そのため次年度では繁殖期の集中的な調査を予定している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は予定通り初年度に開発した遺伝マーカーを用いて、種の分布境界域や同所的生息地などでの集団遺伝構造・個体群動態の解析を行っていく。また、そのための追加のサンプリングも各所で予定通り行う。 交配後隔離機構としての幼生期間における種認識機構の存在を明らかにする実験に関しては、初年度に検討した設備や条件を用いてを実験を重ねていく。これにあたって、初年度に新種記載されたタダミハコネサンショウウオを実験系に新たに追加し、近縁種間の同所性・異所性の違いについて迫っていく予定である。つまり、狭義のハコネとタダミハコネ(同所的に生息)と狭義のハコネとバンダイハコネ(障壁なしに側所的に分布)の組み合わせを特に重点的にデータ収集することで、同所性・異所性の発達についての重要になる要因を明らかにしていく。 交配前隔離機構を明らかにするための繁殖個体の対面実験においては、5月末から6月にかけての繁殖期に各地で重点的なサンプリングを行い、初年度に整えた設備と実験系を用いて当初の計画通りに行っていく。
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Causes of Carryover |
年度当初に異動があったために、初夏に集中的に行う予定であった成体採集のための野外調査が十分に行えず、使用予定だった旅費の一部を次年度に回した。また、研究開始時に調達予定であった各種実験器具の一部が異動先の部署にすでに準備されていたことから、この分物品費が減少した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の繁殖シーズンに、初年度の遅れを補填するべく集中的にサンプリングを行う予定であるため、そのために使用する旅費が増える見込みである。分子実験に関しては、初年度ではまだ本格的に開始していなかった遺伝解析を次年度より開始する。また、当初の予定よりも研究対象とする種が増え、それに伴い遺伝的解析が必要なサンプル数が大幅に増加した。そのため遺伝解析関連の試薬や機器の費用が予定よりも増加する見込みであるので、繰り越し分をこれに充当する予定である。
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Research Products
(3 results)