2015 Fiscal Year Research-status Report
機能的絶滅の閾値を予測する:種子散布者の生息密度が植物の群集構造に与える影響
Project/Area Number |
26870461
|
Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
中本 敦 琉球大学, 大学教育センター, 非常勤講師 (80548339)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | オオコウモリ / 機能的絶滅 / 種子散布 / 送粉 / 植物群集 / 分布 / 琉球列島 / 島嶼生態系 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、琉球列島に生息するクビワオオコウモリの生息密度が島ごとに異なっていることを利用し、それぞれの島でオオコウモリと共生関係(種子散布や送粉)にある植物との間に生じている関係性が地理的に、また生息密度に応じてどのように変化しているのかを明らかにすることを目的としている。これらは生物間の相互作用が正常に機能するには動物や植物がどの程度の生息密度で存在する必要があるのかといった機能的絶滅の閾値を明らかにすることで、最終的には健全な生態系を維持していくための適正な生息密度の把握や希少種の個体数回復の目標値をどのように設定すべきかといった生態系保全への応用を可能にする。 本研究では具体的には、1、琉球列島のオオコウモリの分布・密度を島レベルで推定、2、琉球列島の植物の分布・密度を島レベルで推定、3、送粉者や種子散布者の機能が失われる生息密度(機能的絶滅が生じる閾値)の算出、を計画している。今年度は3年計画の2年目として24島で野外調査を実施し、昨年と合わせて現在までに、沖縄諸島27島、奄美諸島5島、大東諸島2島、宮古諸島7島、八重山諸島4島の計45島においてオオコウモリの生息状況と植生調査の結果に関するデータを得た。これは計画全体のおよそ75%にあたる。取得したデータの解析は引き続き島嶼群ごとに進めていく予定であるが、結果が出るのは来年度以降になる。 文献調査に関しては、琉球列島の植物の分布(在・不在データ)に関する文献収集を行っているところであり、随時パソコンへのデータ入力(デジタル化)を進めている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
これまでに当初の予定の75%の島で野外調査を実施できているが、全体としての進行がやや遅れている状況にある。ただしこれら遅れは想定内であり、当初の予定から3年目を野外調査の予備調査年に充てているので、研究の実施に大きな障害とはならない。いくつかの島嶼群で未調査の島が残っているが、北琉球以外の中琉球、南琉球のエリアではおおむね順調である。当初の予定では2015年までに野外調査を終え、最終年度は主にデータ解析や論文作成にあてる予定であったが、現在、オオコウモリの生息が知られている北琉球の口永良部島や諏訪之瀬島で火山活動が活発化しており、北琉球での野外調査を行えていない。特にトカラ列島はアクセスの悪さからまとまった調査期間を必要とするため、比較的安定した状況が求められる。北琉球のオオコウモリ個体群の最大のソースとなっている口永良部島では、昨年末(2015年12月)に全島避難が解除され島民が帰島しつつある状況にある。今年度は、これまでのデータ解析を進めつつ、タイミングをみて北琉球での野外調査を実施したい。
|
Strategy for Future Research Activity |
最終年度(H28年度)には、これまで火山活動の影響で調査を延期していた北琉球で野外調査を実施する。現在のところ大学の夏期長期休暇を利用して訪島する予定である。 また天候不良などから、十分な調査を行えなかった宮古諸島や八重山諸島のいくつかの島については、再度調査を実施したい。近年の天候不順や沖縄県内の観光客の増加などによる宿泊施設・レンタカーの不足が生じていることもあり、直前での旅程の変更が難しい状況下での日程調整が難しい面がある。短期調査を行いやすいエリアでの野外調査と、データの解析、論文の作成をうまく組み合わせながら、最終年度のスケジュールを調整し、効率よく研究を進めたい。
|
Causes of Carryover |
次年度使用額のほとんどは、初年度に実施予定であった北琉球(大隅諸島・トカラ列島)の野外調査が、口永良部島での火山の噴火により延期されたことから生じた予算の未使用分を本年度も実施できず、そのまま未消化の状況にあるためである。 残りの未使用分は、昨年度の野外調査の遅れを取り戻すため、今年度に予定していた学会への参加・発表を取りやめたためである。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
これまで火山活動のため延期していた北琉球の野外調査を実施することで、これまでの未使用分を全額使用する予定である。現在、口永良部島の火山活動は比較的沈静化してきていると思われるが、九州からトカラ列島にかけての地域全体ではむしろ活発化しているようにも思われる。次年度は最終年度でもあるので、当初予定していたある程度まとまったエリアでの調査を避け、火山や地震の影響を受けにくい島を中心に、危険のない範囲で順次実施していく予定である。これらの理由から北琉球での調査の回数を当初の予定より多くとる必要性が出てくると思われるため、調査の優先順位の低い島での野外調査の中止も検討しつつ状況を見極め、臨機応変に進めたい。今年度参加できなかった学会発表などの研究成果については最終年度にまとめて行う。
|