2014 Fiscal Year Research-status Report
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26870590
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Research Institution | Taisho University |
Principal Investigator |
田谷 修一郎 大正大学, 人間学部, 講師 (80401933)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 両眼間距離 / 空間知覚 / 個人差 / 立体視 / 錯視 / 奥行き手がかり / 両眼視差 / 瞳孔間距離 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,視知覚と視覚認知の個人差における身体特徴,とりわけ両眼間距離の影響を明らかにすることである。 先行研究で筆者は,両眼視差から復元される奥行き量が,観察者の眼間距離が小さいほど大きく(眼間距離が大きいほど小さく)なることを示した。これは両眼視差から奥行き量を換算する際のゲイン(倍率)が観察者個人の眼間距離に応じて調整されているためと考えられる。もしこの仮定が正しければ,ゲインは実物体の奥行き量に合わせて調整されているはずであり,したがって実物体に知覚される奥行き量は眼間距離に依存しないことが予測される。この予測を検討した結果,ステレオグラムに知覚される奥行き量とは対照的に,実物体に知覚される奥行き量は眼間距離と相関しないことが示された。この結果は予測と一致し,視覚系が眼間距離に基づいたゲイン較正を行っているという本研究の仮説を支持する。 また眼間距離が小さいほど,3次元構造を復元する際に,両眼手がかりより単眼手がかりを重視する可能性がある。このことから眼間距離が錯視の強度に影響することを予測した。例えば見かけの大きさに生じるある種の錯視は,錯視図形に含まれる線分が単眼手がかりとして働き,3次元知覚の手続きを「誤作動」させることによって生じると考えられている(「遠近法説」Gregory, 1963)。もしこの説が正しければ,両眼手がかりの信頼性が低く,相対的に単眼性手がかりを重視する眼間距離の小さな観察者ほど錯視量が大きくなる可能性がある。この予測を確かめるためミュラー・リヤー錯視の錯視量と眼間距離の間の相関を検討した。しかし眼間距離と錯視量の間に相関関係は認められなかった。 なお本研究は観察者の身体が知覚に及ぼす影響の検討を大枠の目的とするが,これに関連して,身体の可動範囲の制約に起因すると考えられる錯視を発見した。この錯視は第6回錯視コンテストに入賞した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究目的は身体特徴(特に両眼間距離)と視知覚・視覚認知の関係,とりわけ両眼間距離が錯視量の個人差に及ぼす影響を明らかにすることであった。本年度はミュラー・リヤー錯視量と両眼間距離との関係について検討を行った。事前の予測と異なり錯視量と両眼間距離との間に有意な相関関係を見つけることはできなかったが,この結果はむしろミュラー・リヤー錯視を構成する要因がひとつだけではないという可能性を示す証拠といえるかもしれない。ミュラー・リヤー錯視の説明は,大きさの恒常性すなわち錯視図形に含まれる線分が(無意識的に)単眼性奥行き手がかりとして働いた結果,図形の視距離の見積もりに差が生じ,見積もられた視距離によって見かけの大きさが変わる,というものが一般的である(「遠近法説」Gregory, 1963)。この説は広く浸透しているが,一方で説と一致しない結果も多く報告されている(鈴木, 2008)。今後同様に大きさの恒常性によって生じると考えられている別の錯視についても錯視量と眼間距離の関係をみることによって,それぞれの錯視について「遠近法説」の仮定するメカニズムがどれくらい寄与しているのかを明らかにすることが出来るのかもしれない。 また,本研究の大枠の目的は視知覚と外界との相互作用において身体が果たす役割を明らかにするというものである。本年度筆者の報告した「蛙の手錯視」は身体像の大きさ知覚が身体の可動範囲に影響を受ける可能性を示すものであり,従来の研究では見過ごされていた空間知覚における身体の役割について新たな視点をもたらす現象ではないかと考える。以上のように研究の目的に沿って新しい現象を発見したり,新たな示唆を得ることができたという点からも,本年度の課題は達成できたと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
27年度は計画に沿って,両眼間視力差および両眼視野闘争の時間特性と眼間距離の相関について検討する予定である。また,両眼視差と運動視差,および絵画的手がかりの3者間における手がかり重み付けと両眼間距離の関係について検討する。 元の計画には含んでいなかったものとして,眼間距離以外の身体特徴についても同時に測定して,知覚に及ぼす影響の検討を行う予定である。この方針は両眼立体視における奥行きの知覚が腕の長さに影響を受けるという最近の報告(Volcic et al, 2013)を鑑みて加えるものである。本研究の大枠の目的は視知覚と外界との相互作用において身体が果たす役割を明らかにすることであり,この目的に沿って眼間距離以外の身体特徴についても視知覚の個人差の原因となっている可能性を追求する。またこのことに関連して,身体の可動範囲についての制約が原因となって生じると考えられる,26年度発表の「蛙の手錯視」についても,その原因について詳細な検討を行うとともに,眼間距離が錯視量の個人差にどの程度寄与しているのか明らかにしたい。
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Causes of Carryover |
購入計画のあった演算力の高い実験用PCについて,26年度の実験は静止画刺激を呈示するものばかりであったため,購入を想定していたものよりも演算力の低い既存のPCで十分実験を行うことができ,このために購入を見送った。また26年度遂行の実験はどれも参加者ひとりあたりにかかる実験時間が短かったため,26年度は無償で実験への参加協力を得ることができた。PCと謝金に割り当てられていた予算は,当初の予定で購入が難しいと考えていた実験装置に割り当てる方が本研究の遂行上有益であると考えた。以上の理由から,PCの購入と実験参加者の謝礼に割り当てていた予算を次年度に繰り越した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
実験用PCの購入に使用予定であった予算の繰り越し分を,運動刺激を呈示するための大型ディスプレイの購入に割り当てる。また27年度は複数の実験を連続して行うテストバッテリーを組むことによってデータの取得を効率化する予定であるが,そのために実験参加者の拘束時間が長くなることが予測される。実験参加者に支払う謝礼に繰り越し分を割り当てることにより参加者の安定確保につとめる。
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Remarks |
第6回錯視コンテスト入賞(「蛙の手」錯視)http://www.psy.ritsumei.ac.jp/~akitaoka/sakkon/sakkon2014.html
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Research Products
(5 results)