2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
26870732
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Research Institution | Kinki University |
Principal Investigator |
林 晃大 近畿大学, 法学部, 准教授 (80548800)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 公法学 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、イギリスにおける環境公益訴訟に関して、その中心的な手段である司法審査請求制度の原告適格基準改革論議について研究を進めた。 環境公益訴訟の提起についてまず議論になるのは、原告が環境という公益を保護するために訴訟を提起する資格を有するかどうか、つまり「原告適格」の有無の問題である。イギリスでは司法審査請求制度の原告適格について、裁判所が「十分な利益」という基準を広く解釈することで公益訴訟の提起を積極的に容認してきた。 しかしながら、2013年、イギリス司法省は、司法審査件数の大幅な増加などを理由に、原告適格基準を「十分な利益」から「直接的で具体的な利益」に変更するという提案を行った。この提案が実現すれば、イギリスにおいて広く認められてきた公益訴訟の提起が認められにくくなる。これについて、多くのNGO、裁判官、学界が反対意見を提示した。その根拠としては、司法省の提案が、司法審査請求制度が有する「法の支配の擁護」という役割を軽視しているという点などが挙げられている。 結果として、司法省はこれらの反対意見を受け入れ、原告適格基準の改革を断念している。その際に司法省から出された回答は、他の改革提案に対するものと比較しても非常に簡潔であり、原告適格基準の改革は、アドバルーン的な提案であったと考えることができる。 しかしながら、司法省が反対意見を受け入れ、原告適格基準の改革を断念したことで、原告適格に関しては、政府も法的アプローチを捨て、規制的アプローチを採用するという立場を明確にしたと考えられる。さらに、これにより、イギリスにおける司法審査が「行政救済」ではなく「行政統制」のために用いられる手段であることが確固たるものとされ、政府もそれを認識したといえることから、結果的にはこの改革論議は非常に意義のあるものだと考えられる。
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