2014 Fiscal Year Annual Research Report
ジュディット・ゴーチエの日本関連作品研究―全体像と小説『簒奪者』の生成過程の解明
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26884024
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
吉川 順子 信州大学, 学術研究院総合人間科学系, 講師 (90732032)
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Project Period (FY) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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Keywords | ジャポニスム / 日仏文化交流史 / ジュディット・ゴーチエ / 十九世紀フランス文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、19世紀フランスの作家ジュディット・ゴーチエによる日本関連全8作品を研究対象とし、第一の目的として、それらの制作経緯の調査と全体像の構築、第二の目的として、第一作小説『簒奪者』の生成過程の解明を目指している。二年計画のうち一年目に当たる2014年度では、それぞれ以下のような成果が得られた。 1.日本関連全8作品は、1875年から1912年に亘って書かれ、長短篇小説のほか戯曲もあり、主題も古代から明治に及ぶ歴史・恋愛・文学と幅広い。そうしたことから、特に一貫性はない創作活動に見えるが、各作品を精査するなかで、挿話や記述が使い回されていたことが判明した。また、作家の日本に関するその他の著作も分析に加えると、時代背景(万博等の国際的行事や日欧の外交問題)を通して得た情報が作品創造に役立てられていたこともわかった。 2.第一作小説『簒奪者』については、作家が参照し得た日本関連書籍を可能な限り調査し、そのなかで実際に使用されたと思われる文献をいくつか特定することができた。そして、本作品が単なる歴史小説(大坂の陣を舞台にした争いと愛の物語)ではなく、執筆当時の日本の情勢に関する情報(架空の主人公「長門」の形成に影響を与えたと考えられる下関戦争に関する情報等)や同時代的関心(包囲戦という点で大坂の陣と重なる普仏戦争の記憶等)の影響も受けて著されたものであることがわかった。 以上より、日本関連全8作品を発展性のある作品群としてとらえる必要性が認識できたとともに、これらの作品分析から日本文化受容とフランスの時代背景との関連性を明らかにできると確信した。こうした研究を深めていくことで、ジャポニスム研究を文学的見地から前進させるだけでなく、西洋文化が東洋文化を受容したメカニズムを明らかにすることができると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第一の目的、ジュディット・ゴーチエによる日本関連全8作品の制作経緯の調査と全体像の構築について、当初の計画では、2014年度に初めの5作品の執筆背景・出版状況・主題を調査する予定であった。実際は、6作品の主題の関連性の分析と、執筆背景の調査が中心となった。出版状況の調査がやや手薄なため、2015年に引き続き行う。 第二の目的、第一作小説『簒奪者』の生成過程の解明については、当初、2014年度に第一巻(第1~17章)の参照文献の特定・史実に基づく部分と虚構部分の分析・同時期の問題意識との関連性の分析を行う予定であった。実際は、第二巻(第18~31章)とともに全編を通して、参照文献をいくつか特定し、同時期の問題意識との関連性を考察した。したがって、2015年度に引き続き参照文献の調査を行い、特に同時期の問題意識との関連性を裏付け得る、史実部分と虚構部分の分析を進める。 その他、成城大学名誉教授の金沢公子氏が主催する『簒奪者』の読書会に二ヶ月に一度出席して作品の理解を深めたほか、渡仏時にはフランスでジュディット・ゴーチエ全集の刊行に携わっているラ・ロシェル大学のイヴァン・ダニエル教授と面会し、作家没後百年にあたる2017年に互いに協力してシンポジウムを開催する旨、相談することができた。 なお、上記の第二の目的について、『簒奪者』の生成には当時の日本関連出版物の挿絵の存在が少なからず影響を及ぼしていたこともわかった。その一端を、「十九世紀後半のフランスにおける日本関連出版物と挿絵―鳥というモティーフが担った役割」(林洋子/クリストフ・マルケ編『テキストとイメージを編む、出版文化の日仏交流』)に発表したことからも、研究はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
2015年度は、第一の目的、ジュディット・ゴーチエによる日本関連全8作品の制作経緯の調査と全体像の構築について、後の2作品の執筆背景・出版状況・主題を調査する。特に、初めの6作品を含め、やや手薄である出版状況について、フランス国立図書館で調査を行う。 第二の目的、第一作小説『簒奪者』の生成過程の解明については、可能な限り参照文献が特定できるよう努め、それをもとにして作家がいかなる虚構を組み込んだのか、また、それが同時期のフランスの問題意識といかなる関係があったのかを明らかにする。 以上の研究成果を、適宜、日本比較文学会等で発表する予定である。
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Research Products
(1 results)