2014 Fiscal Year Annual Research Report
抗がん剤誘発末梢神経障害の発生・難治化における神経-シュワン細胞相互作用の関与
Project/Area Number |
26893118
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
今井 哲司 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (80468579)
|
Project Period (FY) |
2014-08-29 – 2016-03-31
|
Keywords | 末梢神経障害 / シュワン細胞 / ラット / 脱分化 / ミトコンドリア障害 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者は、新生ラットの坐骨神経由来初代シュワン培養細胞実験系の確立に成功した。培養した成熟シュワン培養細胞に、抗がん剤であるシスプラチン、オキサリプラチンあるいはパクリタキセルをシュワン細胞に処置したところ、48 時間後において濃度依存的な細胞生存率・細胞数の減少ならびに myelin basic protein (MBP)の発現低下が引き起こされた。一方、同条件下で細胞形態について観察したところ、シスプラチンあるいはオキサリプラチン処置群においては、シュワン細胞の形態変化は認められなかった。それに対し、パクリタキセル処置群では顕著な樹状突起の消失が認められた。これらのことからタキサン系と白金系抗がん剤ではシュワン細胞に対する直接作用において、何らかの違いがある可能性が示唆された。近年、白金系抗がん剤はミトコンドリアの代謝回転を阻害することで腎臓細胞障害を引き起こすことが報告されている。そこで、各種抗がん剤処置後におけるシュワン細胞のミトコンドリア活性の変化について検討を行った。その結果、シスプラチンあるいはオキサリプラチン処置群においては、著明なミトコンドリアの膜電位の消失が認められた。しかし、パクリタキセル処置群では溶媒処置群と比較して変化は観察されなかった。これらの知見を基に、研究代表者はパクリタキセル処置後に認められる分化マーカーMBPの発現低下ならびにシュワン細胞樹状突起の消失が、細胞障害を惹起する白金系抗がん剤とはことなり、細胞の脱分化反応に起因しているのではないかとの仮説を立てた。各種抗がん剤処置後のシュワン細胞における分化状態の検討を行った結果、パクリタキセル処置群においてのみ、p75 の発現増加伴った再分化反応が起きていることが明らかとなった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の本実験の実験計画では、末梢神経障害といった多因子疾患の病態を解明するために、まずゲノムレベルで網羅的に遺伝子発現情報を解析するという遺伝子発現プロファイルを行う必要性を想定していた。しかし、各種抗がん剤をシュワン細胞に処置することにより、著明な変化を観察することができ、特にパクリタキセル処置群における脱分化反応は非常に有意義な知見と考えられたため、現時点で遺伝子発現プロファイリングを行う必要性はないと判断した。 本年度の研究を通して、研究代表者はラット坐骨神経由来初代シュワン培養細胞実験系の確立に成功し、さらにタキサン系抗がん剤と白金系抗がん剤によるシュワン細胞への直接作用における明確な相違を見いだすことに成功した。これらの研究成果を基に、既に研究代表者は海外論文への投稿準備を開始している。 また、本年度研究実績概要に記載していないが、研究代表者はラット後根神経節由来初代シュワン培養細胞と坐骨神経初代培養細胞の共培養実験系の確立に成功した。さらに、ラット組織標本を用いた抗がん剤誘発神経あるいはシュワン細胞障害の評価系を確立した。 本研究テーマを開始して1年で、これらの研究成果を得たことについては十分意義があるものと考えられ、その進捗状況は概ね良好であると思われる。
|
Strategy for Future Research Activity |
引き続き、ラット後根神経節(DRG)由来初代神経培養細胞と純粋化した初代シュワン培養細胞との共培養実験系を行う予定である。一度に大量のアッセイを行うためには、まだ実験条件の最適化を行う必要がある。ラット後根神経節由来神経初代培養細胞とシュワン初代培養細胞の共培養系に各種抗がん剤を処置しミエリン形成への影響について検討を行う。特にパクリタキセル処置群においては、シュワン細胞単独培養時に認められたような脱分化反応が確認出来るかについて評価を行う。一方、神経初代培養細胞に各種抗がん剤を処置し、細胞障害の状態ならびに薬物除去後における神経軸索の再生の有無について比較検討を行う。平行して、神経・シュワン細胞共培養実験系において同様の実験を行い、神経軸索再生過程におけるシュワン細胞の役割について検討を行う予定である。また、発現ベクターあるいはsiRNAなどを作製してシュワン細胞に候補分子を強制発現あるいは発現抑制させる。それらの条件下、ミエリン形成過程に影響があるかについて主に蛍光顕微鏡法にて検討する。その後、シュワン細胞を髄鞘化させたDRG神経細胞の機能変化について、カルシウムイメージング法やパッチクランプ法により解析を行う。 マウスあるいはラットを用いた抗がん剤誘発末梢神経障害モデルにおいて疼痛行動を指標とした行動評価系ならびに同モデルを用いた生化学的な検討を行う。まずは、抗がん剤誘発末梢神経障害モデル動物において、Western-blotting 法や免疫染色法に従い、末梢神経の脱ミエリン化が引き起こされているか、末梢神経やシュワン細胞障害が起こっているかについて検討を行う予定である。
|