1986 Fiscal Year Annual Research Report
与謝野晶子の体育思想-生活者としての体育意識の形成-
Project/Area Number |
60580116
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Research Institution | Ichimura Gakuen Junior College |
Principal Investigator |
庄司 節子 市邨学園短, その他, 助教授 (30141443)
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Keywords | 与謝野晶子 / 大正デモクラシー / 臨時教育会議 / 兵式体操 / 生活者 / 産む性 |
Research Abstract |
第一次大戦後の国家独占資本主義の発達を基礎とする軍事的な国家体制のもとでの教育改革として発足した臨時教育会議は、1917年から1919年の1年半にいたる期間に2つの建議と9つの諮問事項に関する答申を行っている。この建議の1つ「兵式体操二関スル建議 (1917年10月25日)に対して、晶子は「学校に対する兵式体操に反対する (横浜貿易新報、1917年11月25日)と題した発言がある。晶子は、「感情と知識と徳性と体力 の円満な発達を意識し、軍閥からの体育擁護を説き、大正デモクラシーの思潮に支えられたその人間尊重の教育思想を基盤に自由思想的な体育を志向し、国民皆兵主義的な体育や勝利至上主義的な武士的な体育を否定している。こうした晶子の体育観の根底には、数多い出産と現実の生活体験を踏えての産む性を視点にした女の論理が見い出せる。晶子独自のこの論理は、「汎労働主義 を基軸に「自我発達主義 「文化主義 「男女平等主義 「人類無階級的連帯責任主義 の5つを原理とする社会を構想し、平塚らいてう等との母性保護論争を通じて明らかにしているが、これを土台に、産む性を母性イデオロギーに回収されず「創りだす性 「歴史を浄化する性 とみなし権力による身体への介入を拒絶していたと考える。体育の意義を人間の素地を培う「健康 の「訓練 とする晶子は、この意味において、体育を女性性との脈絡で捉え、公権力によって拘束される身体への抵抗として兵式体操を批判したと考える。 しかし、このような晶子の生活者としての体育意識には、皇室賛美や戦時中の侵略戦争容認の言動にみえるように体育思想としての問題点が残されていことを今後の課題としたい。
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