Research Abstract |
心筋は, 外的刺激に応じて生化学的に適応する. つまり, 圧負荷を受けた心房筋は, ミオシン重鎖アイソザイムをα型→β型に変換する. この機構について分子生物学的アプローチを行ってきた. すなわち, ヒト胎児心筋cDNAライブラリーより単離した重鎖cDNAクローンを用いて, 圧負荷心房筋RNAに対して, ノーザンブロット法を行い, 正常圧心房に比較し圧負荷心房では有意にβ型重鎖mRNAが増加し, α型重鎖mRNAが有意に減少していることを明らかにした. このことは, 圧負荷による重鎖アイソザイムの変換がmRNAへの転写レベルで制御されていることを示すものである. 軽鎖に関しては, その生理的機能は現在まで明らかではないが, 発生段階による制御をうけるため, 筋組織におけるアイソザイム変換機序の解明にとって良いモデルと考えられる. そこで, 前年度までは単離した軽鎖cDNAクローンの解析を続け, 心房筋, 心室筋型軽鎖双方の全長を含むクローンの塩基配列分析, 特異的な発現(組織, 発生段階)を解析した. 心房筋型は, 196個, 心室筋型は194個のアミノ酸残基より構成され, 両者のアミノ酸レベルの相同性は78.4%であり, 骨格筋型との比較より高い相同性であった. このことは, 心房筋型, 心室筋型軽鎖が進化の比較的新しい時期に分岐したことを示し, 進化速度・塩基置換率を〓にした計算より, 約〓億年前に共通祖先遺伝子から派生したことが明らかとなった. また, これまで蛋白レベルで胎児心室筋に存在する軽鎖が報告されてきたが, 今回 我々は, それが心房筋型遺伝子の発現による軽鎖であることを明らかにした. また, 圧負荷心房筋における心室筋型軽鎖の出現を認め, 重鎖遺伝子と同様, 軽鎖遺伝子も圧負荷による発現制御を受けることが明らかになった. 現在, 心房筋型・心室筋型軽鎖遺伝子の単離と構造解析を行い, 発現調節領域の機能につきCATアッセイにて検討している.
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