2015 Fiscal Year Annual Research Report
生体膜内におけるプラズマ活性種輸送の統合的分子動力学解析
Publicly Offered Research
Project Area | Plasma medical innovation |
Project/Area Number |
15H00899
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
内田 諭 首都大学東京, 理工学研究科, 准教授 (90305417)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | プラズマ / 活性種 / 分子動力学 / 膜透過 / 複合膜 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、生体膜内における放電活性種の力学的挙動および膜構成分子間の解離反応について、古典および量子分子動力学法を併用して解析することにより、細胞膜中における放電活性種の輸送特性および構造変位を理論的かつ定量的に解明していくものである。 期間内において、(1)放電活性種を内在する単一および複合生体膜の数値モデルを構築する、(2)生体膜中における酸素活性種の輸送係数を古典分子動力学法により導出する、(3)酸素活性種の投入量に対する損傷膜の密度変化及び残存分布を推定する、(4)リン脂質の解離による上記パラメータへの影響を量子計算的に解明する、(5)各膜部位における活性種輸送の相違を解析して、膜浸透率を導出する、(6)膜構成分子間の相互作用を構造変位から定量化し、膜安定度としてデータベース化する、といった各目標を達成するとともに、成果の有機的連携により研究全体を推進する計画である。 本年度(平成27年度)は、膜内輸送の基本構成である単一膜中の活性種の輸送・分布特性および膜損傷状態における輸送への影響を理論的に精査することを主目的として、【課題1】放電活性種を内在する単一生体膜モデルの構築、【課題2】酸素活性種の輸送係数の導出、【課題3】酸素活性種の投入量に対する損傷膜密度の変化と残存分布の推定、【課題4】リン脂質の解離による輸送パラメータへの影響評価、を行った。 【課題1】に関しては、膜構成ソフトウエアを用いて、単一リン脂質で構成された二重膜をモデル化した。【課題2】では、古典的分子動力学法による変位計算を行い、酸素活性種の拡散係数を導出した。【課題3】に関しては、活性種挙動の時間積算から得た残存分布を比較検討した。【課題4】においては、リン脂質分子に対する活性種の射突を量子分子動力学法により模擬し、入射エネルギーおよび活性種別に対する解離過程の変化を精査した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
【課題1】において、人体細胞膜の主成分であるフォスファジチルコリンを対象とし、膜分子構成ソフトウエア(CHARMM Membrane Builder)を用いて、単一二重膜構造をモデル化した。さらに、O,O2,OH,HO2,H2O2といった酸素活性種を膜内外に配置し,初期安定構造が得られた。 【課題2】に関しては、上記で作成したモデルに対して、常温常圧下における古典分子動力学計算(分子動力学ソフトウエアAmber14を使用)を10-100 ns程度の時間スケールで行った。ここで、生体膜内における各酸素活性種の自乗平均変位から、拡散係数を導出した。水中に比べて値が減少するとともに、分子量や親水または疎水性により違いが生じることを定量的に示した。本結果の詳細は国内会議(第76回応用物理学会秋季学術講演会)にて発表している。なお、長時間解析への対応は、次年度も引き続き検討を進めて行く予定である。 【課題3】については、上記計算と同様にして活性種の挙動軌跡を計算した結果を時間積分することによって、活性種毎の残存分布を得た。これらは、膜内における活性種の自由エネルギーと強い相関を持っており、実験結果との比較から本計算の妥当性を示している(第25回日本MRS学会年次大会にて報告)。 【課題4】においては、リン脂質分子に対するO,O2,H2O2の射突について、半経験的分子軌道法(PM3)を用いた量子分子動力学法により、それらの反応工程を模擬した。入射エネルギー、初期位置および活性種別に対する解離過程の変化を精査した結果、結合手の多いOにおける反応が著しいことを定量的に示した。また、種別によっては初期位置に対して反応変化が生じることもわかった(第63回応用物理学会春季学術講演会にて報告)。 以上より、本年度の研究においては当補助金を有効に活用し、到達目標を概ね達成できていると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、前年度の結果を用いて複合脂質二重膜の分子モデリングおよび膜分子間の相互作用の定量評価と膜安定度の導出を行う。 (1)たんぱく質を含む複合脂質二重膜モデルへの拡張:蛋白質構造データバンク(PDB)に登録されている関連分子から膜由来たんぱく質およびコレステロールの立体構造を選定する。前年度【課題1】と同様にして、たんぱく質とコレステロールを含めた複合脂質二重膜モデルを形成し、平衡状態を計算する。なお、以後の平衡計算における高速化を図るため、平衡状態のデータ保存ならびに初期入力値化を自動で行う補助プログラムを作成する。 (2)各膜部位における活性種輸送の変位解析および膜浸透率の導出:複合膜の各膜部位における活性種の輸送パラメータを古典MD計算にて導出する。この時、複合膜部位における混合割合の違いによる輸送パラメータへの影響を検証する。また、入射レートを基にした活性種の初期配置数から部位毎の膜浸透率を導出する。活性種の反応により断片化した分子要素を含む脂質二重膜中の挙動については上記項目(1)で作成した補助プログラムを用いて活性種を再配置し、量子/古典併用MD計算にて挙動を模擬する。 (3)膜構成分子間における相互作用の定量化および膜安定度のデータベース化:上記項目に基づく構成分子間の時空間偏差から膜変位量を概算して定量化する。以上の計算を各活性種について行い、断片化率と膜の揺らぎ時間及び溶媒浸透率の経時変化から膜安定性を定量評価する。本項目の大規模解析結果は大容量計算サーバに保存し、データベース化する。
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Research Products
(13 results)