2015 Fiscal Year Annual Research Report
感応性化学種が持つ中間的な電子構造とその反応に関する理論的研究
Publicly Offered Research
Project Area | Stimuli-responsive Chemical Species for the Creation of Functional Molecules |
Project/Area Number |
15H00908
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
小林 正人 北海道大学, 理学研究院, 助教 (40514469)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 量子化学 / 理論化学計算 / 高配位典型元素化合物 / 中間ジラジカル性 / 分散力 / 環境効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、分散力・強い電子相関・環境効果などを介した「中間的な電子構造」が感応性化学種を支配する重要なキーワードであると捉え、精緻な量子化学計算により感応性化学種の構造と反応、物性を理解することを目的として研究を行っている。 本年度はまず、高配位典型元素化合物の一つである三方両錐型5配位アンチモンAr5Sbのリガンドカップリング反応のメカニズムの解明を行った。従来、実験からはアピカル位同士のリガンドが反応する機構が、モデル計算からはエカトリアル位同士のリガンドが反応する機構が提案されてきた。しかし、リアル系のDFT計算により、アピカル位とエカトリアル位のリガンドがカップリングする遷移状態を経由する反応経路の活性化エネルギーが低いことがわかった。遷移状態ではn-π*相互作用が大きく関与し、カップリングリガンド種に応じて活性化エネルギーが決定することが判明した。この事実は、実験家が元々提案したアピカルカップリング機構の傍証を矛盾なく説明することができることも示した。また、従来計算から提案されていたエカトリアルカップリング機構は、対称性が高いモデル分子の極限反応座標から導かれるものであり、経路の途中にある谷-尾根遷移を通じてモデル分子でもアピカル-エカトリアルカップリングが可能であることが示された。 次に、大阪大学の中野教授との共同研究により、中間ジラジカル性を持つ分子の構造と光学応答について、強い電子相関を記述するジェミナル理論を用いた解析を行った。有限場法を用いて、ジェミナル理論である反対称化強直交ジェミナル積(APSG)法やHartree-Fock-Bogoliubov (HFB)法に基づく分極率・超分極率算定プログラムを実装し、結合解離系やジラジカル系に適用した。HFB法では、ペア密度行列のトレースがジラジカル性と相関していることが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度に予定していた(1)高配位典型元素化合物のリガンドカップリング反応のメカニズム解明と(2)中間ジラジカル性を持つ分子の構造と光学応答についての研究をほぼ終え、(1)については報文2報にまとめている。次年度に予定している、異常に長い結合長を持つ化合物の理論的研究についてもすでに着手しており、研究は順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度はまず、研究計画にあるとおり異常に長い結合長を持つ化合物とその感応性に関する理論的研究に取り組むが、これについても既に予備計算を始めている。環境効果について、計画では分割統治法を利用することとしているが、ONIOM法などより簡便な手法も研究段階に応じて利用する予定である。また、大阪大学の中野教授との共同研究を推進し、ジェミナル理論のHFB法で予め指定する必要がある任意パラメータを、光応答物性を考慮することによって自動的に決定する手法の開発を、当初計画に追加して行いたい。
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Research Products
(14 results)