2015 Fiscal Year Annual Research Report
遷移金属含有ゼオライトを用いた生体酵素模倣触媒の創製における計算化学的アプローチ
Publicly Offered Research
Project Area | Stimuli-responsive Chemical Species for the Creation of Functional Molecules |
Project/Area Number |
15H00941
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Research Institution | Kyoto Institute of Technology |
Principal Investigator |
湯村 尚史 京都工芸繊維大学, その他部局等, 准教授 (80452374)
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Project Period (FY) |
2015-06-29 – 2017-03-31
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Keywords | メタン活性化 / 密度汎関数法計算 / 活性化エネルギー / ゼオライト / ナノ細孔 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成 27年度の研究では大規模密度汎関数法 (DFT) 計算を行うことにより, 水分子存在下 Cu‒ZSM-5 における酸素分子活性化反応についての知見を得た. この反応ではまず, 二核銅に水および酸素分子が結合する. 次に, 水分子の水素原子が酸素原子に移り水酸基が新たに生成する. この水酸基の水素原子はもう一方の酸素原子に移り HO-Cu-O-Cu-OH種に至る. その後, 水酸基の水素原子が酸素原子に転移し O=Cu-OH-Cu-OH種が生成する. HO-Cu-O-Cu-OH種および O=Cu-OH-Cu-OH 種は始状態よりもエネルギー的に安定である. このため, この中間体の生成がエネルギー的に有利であることが明らかになった. この中間体のスピン密度分布に注目したところ, 酸素原子上にスピン密度が局在していることが分かった. このことは, ラジカル性を有する酸素原子の存在を示唆しており, この活性種でのメタンC-H 結合の活性化が可能である. 実際, この二つの反応活性種によるメタンC-H 結合活性化反応の活性化エネルギーを見積もったところ, それぞれ10 kcal/mol 程度であった. 水分子が関与しない場合に生じる Cu-O-Cu種の場合のC-H 結合活性化反応の活性化エネルギーは 30 kcal/molであるため, 水分子をCu-ZSM-5 に導入することによりメタンに対する反応性を向上することが可能となった. この研究では, 金属オキソ種が重要な役割を演じるが, 同様に金属オキソ種が生成する窒素含有鉄錯体についてのメタン活性化反応に関しても検討を行っている. この研究では, メタン活性化における速度論的同位体効果に注目することにより, 速度論的同位体効果と窒素含有鉄錯体の活性能の関連性を新たに見出した. この研究は領域内の共同研究の一環として行われており, 論文は現在執筆中である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成 27年度の研究目標は, 大規模密度汎関数法計算により遷移金属含有ゼオライト細孔内で進行するメタン活性化反応を原子レベルで追跡することであった. この目標は平成 27年度にすでに達成され, その成果は ACS Catalysis (IF: 9.3) に掲載済みである. 実際, ごく僅かな水分子の存在によりゼオライト細孔内に銅―酸素ラジカル種由来の感応性化学種が生成することがわかり, その種によりメタンのC-H 結合は効率よく活性化することが明らかになった. これは水分子が関与しない場合よりメタンC-H 結合活性化能が向上することも見出した. さらにこの触媒に関連して鉄―酸素ラジカル種が生成する窒素含有鉄錯体によるメタンーメタノール直接転換機構についても密度汎関数法計算で追跡した. この研究は領域内の共同研究の一環として行われ, ゼオライト触媒と比較検討することによりゼオライトの閉じ込め効果の重要性が新たに判明し, 当初の研究予定はおおむねに順調に進展している.
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Strategy for Future Research Activity |
平成 27 年度で得られた触媒反応のメカニズムを踏まえ, ナノ反応場の特異性を利用して遷移金属含有ゼオライトの触媒反応を制御する. 実際には, 銅 (銀) 含有ゼオライトの活性種である二核銅種 (少数原子からなる銀クラスター)の構造をコントロールし, 外部刺激下で生じる高エネルギー化学種の触媒機能を調整する. これを行うため, ゼオライトのアルミニウム原子の配置に注目する. 一般に, ゼオライト内部の遷移金属元素はアルミニウム原子近傍に存在する. 従って, アルミニウム原子の配置に依存して異なる金属―金属間距離を有するクラスターがゼオライト内部に存在する[4,5]. その結果, ゼオライト内部に存在する遷移金属クラスターの触媒機能はアルミニウム原子の配置に強く依存するものと予想される. この申請者の予想に従い, アルミニウム原子の配置を変化させることにより, 遷移金属含有ゼオライトのメタンに対する触媒機能を最適化する. さらに, ゼオライト内部に生成する高エネルギー化学種, および触媒反応における中間体や遷移状態の構造は, ナノ空間の立体制約から影響を受けるものと考えられる. このため本研究においては, 異なる細孔径を有するゼオライトにおいても同様の反応追跡を行い, ナノ反応場の触媒反応に及ぼす効果を議論する.
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Research Products
(9 results)