2015 Fiscal Year Annual Research Report
酵素に結合した感応性化学種の振動分光法による選択的検出と反応機構
Publicly Offered Research
Project Area | Stimuli-responsive Chemical Species for the Creation of Functional Molecules |
Project/Area Number |
15H00960
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
小倉 尚志 兵庫県立大学, 生命理学研究科, 教授 (70183770)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 感応性化学種 / 酸素添加反応 / インドールアミン / 共鳴ラマン / 振動スペクトル / 反応機構 / シトクロムc酸化酵素 / チロシンラジカル |
Outline of Annual Research Achievements |
シトクロムc酸化酵素(CcO)は、酸素分子を水にまで還元し、同時にプロトンを膜の内側から外側へ能動輸送するプロトンポンプとして働く。こうして膜に生じる電気化学的ポテンシャルにより、ATPが合成される。 CcOによる酸素分子還元は、ヘム(Fe)とCuの二核中心で行われる。Feと酸素分子との反応ではまず酸素化型が生じ、次にP中間体が生じる。この段階で酸素分子は4電子を受け取っており、2個はFeから、1個はCuから供給される。4個目は、Cuの配位子であるH240と翻訳後修飾により結合したY244から供給されると考えられており、この場合、チロシンラジカルが生じるが、直接的な証拠は無い。そこで、本研究では紫外共鳴ラマン分光法を用いてチロシンラジカルの検出を試みた。 励起波長244 nmのCcOの共鳴ラマンスペクトルには、主にチロシン残基とトリプトファン残基に由来するラマンバンドが現れる。P中間体のスペクトルには、1404波数と1518波数にラマンバンドが検出された。共鳴ラマンスペクトルのこの特徴から、P中間体にはチロシンラジカルが生成することがはっきりした。 フリーのチロシンのフェノール性OHのpKaは10.1である。我々は以前、ウシCcOに見られるY244-H240のモデル化合物のTyr-Hisでは9.2に低下することを報告した。ウシ心筋CcOの機能単位には72個のチロシン残基が存在するが、上述のような低いpKaを与えるという独特の性質を持つことと、ヘムの近くに存在することから、本研究で検出されたチロシンラジカルの信号は、Y244に由来する可能性が高い。この解釈は、P中間体が生成するとき酸素分子に与えられる4個の電子が、Feから2個、Cuから1個、Y244から1個供給されるという考えを支持する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)とシトクロムc酸化酵素(CcO)において酵素反応中にタンパク質内に生じる感応性化学種を紫外共鳴ラマン分光法により詳しく調べる計画である。当初、平成27年度にIDOを、平成28年度はIDOの研究を続けながらCcOに取りかかる予定であったが、IDOの調製に用いるクロマトグラフィーシステムが故障したため、平成27年度にCcOについて研究した。 ウシ心筋CcOは、ミトコンドリア内膜の呼吸鎖電子伝達系にあり、分子状酸素を水にまで還元する反応に共役してプロトンを膜の内側から外側へ汲み出すプロトンポンプとして働く、生体エネルギー変換の鍵酵素の1つである。酸素還元反応において、最初の反応中間体はFe(III)-O2である。次の反応中間体は、形式的にFe(V)=Oであり酸素分子には4電子が渡り、遊離したO原子はOH-を形成すると考えられる。酸素分子に渡る電子の起源は、Feから2個、Cuから1個であり、4個目はFeの近くに存在するY244と考えられているが、物理的証拠は無かった。もし、Yが電子とプロトンの供与体ならチロシンラジカルが生じるので、本研究では紫外共鳴ラマン分光によりチロシンラジカルの検出を試みた。 その結果、244 nm励起の共鳴ラマンスペクトルにチロシンラジカル由来の信号を検出した。ウシCcOには72個のチロシン残基が存在するが、Y244はCuの配位子であるH240と共有結合を形成しており、特殊である。このことと、Y244がヘムの近傍に存在することから、本研究で検出したP中間体のチロシンラジカルはY244である可能性が高い。 以上のことから、P中間体形成時に酸素分子に供与される4電子の起源は、Feから2個、Cuから1個、Y244から1個であるという説は支持された。
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Strategy for Future Research Activity |
CcOのP中間体について、Y244がラジカルである証拠を得たが、このラジカルの性質をさらに詳しく調べるため、可視共鳴ラマン分光法による検出を試みる。 次に、IDOの反応中間体について紫外共鳴ラマン分光法により、タンパク質に結合した基質の振動スペクトルを選択的に得る。それを解析して、反応中間体における基質の状態をはっきりさせ、反応機構の解明につなげる。
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Research Products
(38 results)
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[Journal Article] A Model for the Active-Site Formation Process in DMSO Reductase Family Molybdenum Enzymes Involving Oxido-Alcoholato and Oxido-Thiolato Molybdenum(VI) Core Structures2016
Author(s)
H. Sugimoto, M. Sato, K. Asano, T. Suzuki, K. Mieda, T. Ogura, T. Matsumoto, L. J. Giles, A. Pokhrel, M. L. Kirk, S. Itoh
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Journal Title
Inorg. Chem.
Volume: 55
Pages: 1542-1550
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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[Journal Article] Effects of Heme Electronic Structure and Distal Polar Interaction on Functional and Vibrational Properties of Myoglobin2016
Author(s)
Y. Kanai, R. Nishimura, K. Nishiyama, T. Shibata, S. Yanagisawa, T. Ogura, T. Matsuo, S. Hirota, S. Neya, A. Suzuki, Y. Yamamoto
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Journal Title
Inorg. Chem.
Volume: 55
Pages: 1613-1622
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] A nearly on-axis spectroscopic system for simultaneously measuring UV-visible absorption and X-ray diffraction in the SPring-8 structural genomics beamline2016
Author(s)
M. Sakaguchi, T. Kimura, T. Nishida, T. Tosha, H. Sugimoto, Y. Yamaguchi, S. Yanagisawa, G. Ueno, H. Murakami, H. Ago, M. Yamamoto, T. Ogura, Y. Shiro, M. Kubo
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Journal Title
J. Synchrotron Rad.
Volume: 23
Pages: 334-338
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] New mechanistic insight into intramolecular arene hydroxylation initiated by (μ-1,2-peroxo)diiron(III) complexes with dinucleating ligands2015
Author(s)
M. Sekino, H. Furutachi, K. Tasaki, T. Ishikawa, S. Mori, S. Fujinami, S. Akine, Y. Sakata, T. Nomura, T. Ogura, T. Kitagawa, M. Suzuki
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Journal Title
Dalton Trans
Volume: 45
Pages: 469-473
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Generation, Characterization, and Reactivity of a Cu(II)-Alkylperoxide/Anilino Radical Complex: Insight into the O-O Bond Cleavage Mechanism2015
Author(s)
S. Paria, T. Ohta, Y. Morimoto, T. Ogura, H. Sugimoto, N. Fujieda, K. Goto, K. Asano, T. Suzuki, S. Itoh
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Journal Title
J. Am. Chem. Soc.
Volume: 137
Pages: 10870-10873
DOI
Peer Reviewed
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[Presentation] 酸素活性種を含む二核鉄錯体の酸化反応性2015
Author(s)
関野実緒, 古舘英樹, 藤波修平, 秋根茂久, 酒田陽子, 野村高志, 小倉尚志, 鈴木正樹
Organizer
錯体化学会第65回討論会
Place of Presentation
奈良女子大学(奈良県奈良市北魚屋西町)
Year and Date
2015-09-21 – 2015-09-23
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[Presentation] Development of On-axis Simultaneous Measurement System of UV-Visible Absorption and X-ray Diffraction at SPring-82015
Author(s)
M. Sakaguchi, T. Kimura, T. Nishida, T. Tosha, S. Yanagisawa, G. Ueno, H. Murakami, H. Ago, M. Yamamoto, T. Ogura, Y. Shiro, M. Kubo
Organizer
Synchrotron Radiation Instrumentation (SRI2015)
Place of Presentation
NY Marriot Marquis (USA)
Year and Date
2015-07-06 – 2015-07-10
Int'l Joint Research
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[Presentation] ケージドNOを用いた脱窒カビ由来NO還元酵素結晶における反応中間体の調製2015
Author(s)
西田拓真, 當舎武彦, 坂口美幸, 木村哲就, 柳澤幸子, 上野 剛, 村上博則, 山本雅貴, 小倉尚志, 城 宜嗣, 久保 稔
Organizer
第15回日本蛋白質科学会年会
Place of Presentation
あわぎんホール(徳島県徳島市藍場町2-14)
Year and Date
2015-06-24 – 2015-06-26
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