2015 Fiscal Year Annual Research Report
間伐施業が森林生態系の放射性セシウムの循環に及ぼす影響の定量的評価
Publicly Offered Research
Project Area | Interdisciplinary Study on Environmental Transfer of Radionuclides from the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant Accident |
Project/Area Number |
15H00970
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
高橋 純子 筑波大学, 生命環境系, 助教 (30714844)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 形態別放射性セシウム / 福島第一原子力発電所事故 / 森林除染 |
Outline of Annual Research Achievements |
放射性物質の循環プロセスの解明と長期的なモデル化のためには、森林内の放射性セシウムの実態把握とともに、森林管理や除染活動による影響を考慮することが求められる。とくに、間伐等によって林内が明るくなると、リターや土壌有機物の分解が進み、有機物に結合した放射性セシウムが可給態として放出するとともに、樹木の成長促進や下草の回復が見込めることから、より森林内での放射性セシウムの循環が活発化する可能性が考えられる。そこで、本研究では、福島県川内村の試験林において、各処理区(①皆伐・落ち葉かき区、②間伐・落ち葉かき区、③間伐区、④対照区)の土壌呼吸量の測定、スクレーパー調査および形態別放射性セシウム濃度の分析を行なった。土壌呼吸量は9月より開始し、土壌呼吸量を決定する環境因子と考えられる地温と土壌水分量についてもデータロガーを設置した。現段階で、土壌呼吸量には処理区間で差は認められず、地温と高い正の相関にあった。また、地温は曇天時および夜間には処理区間で差はないが、晴天時には2~5℃程度、皆伐および間伐区で高い傾向が認められた。 一方、スクレーパー調査により各処理区で土壌中の放射性セシウムの深度分布を調べたところ、対照区では深さに伴い指数関数的に減少する典型的な深度分布が得られたものの、除染区ではいずれも伐採作業による土壌の撹乱が認められ、深さ5cm程度までほぼ同じ濃度となった。交換態(1M 酢酸アンモニウム抽出)および有機物結合態(過酸化水素処理+3.2M 酢酸アンモニウム抽出)の分析を行なったところ、当初の予想に反し、いずれも除染区の方が濃度および割合が低い結果となった。これは、除染区では直射日光により土壌の乾湿が激しく、放射性セシウムの固定が促進されたこと、落ち葉かきにより新鮮なリターからの放射性セシウムの供給がなくなったことなどが可能性として考えられ、今後検討する必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
調査地について、省庁や地元自治体の承認が必要であったため、本格的な調査開始が9月からとやや遅れてスタートしたものの、現在までにほぼ必要な機器や部品の設置は完了できた。また、当初の仮説とは異なる傾向となっているが、間伐・皆伐区で可動性の高い交換態セシウム濃度が低下している今回の結果は、森林除染による経根吸収のリスクの低下を招く良い結果であると言える。その原因究明などは新たに検討する必要があるが、おおむね順調に研究は進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は引き続き土壌呼吸量の定期測定を続けるとともに、形態別放射性セシウムの分析も継続する。とくに、団粒分析および比重分画を行い、粒径の異なる団粒や、比重の異なる画分について、それぞれに形態別放射性セシウムの分析をすることで、より詳細な土壌中の放射性セシウムの存在部位と存在形態を明らかにする。 また、本調査地は林野庁により2012年から実施されている『森林における放射性物質の拡散防止等技術検証・開発事業』の1つである。この事業内で観測されているリターフォール量や土砂侵食量などの多様なデータも利用しながら、森林除染が土壌中の放射性セシウムの動態に与える影響について評価していく。
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