2015 Fiscal Year Annual Research Report
放射光複合X線分析による福島第一原発事故由来の放射性物質の特性化
Publicly Offered Research
Project Area | Interdisciplinary Study on Environmental Transfer of Radionuclides from the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant Accident |
Project/Area Number |
15H00978
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
中井 泉 東京理科大学, 理学部, 教授 (90155648)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 福島第一原発事故 / 放射性物質 / 大気粉塵 / 土壌 / 環境動態 / 放射光X線分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
福島第一原発事故により大気中に飛散した放射性物質の性状解明を目的として,大気粉塵および土壌から強放射性の粒子を分離し,大型放射光施設SPring-8での放射光マイクロビームX線分析を中心とした非破壊の性状解明を行った。以下では平成27年度に得られた主要な成果に関して報告する。 土壌試料は筑波大学の末木らによって福島県内で採集されたものであり,放射性CsおよびAgの放射能比によっていくつかのグループに分類されることが明らかとなっている。本研究では,1号機由来の放射性物質が飛来したと考えられる原発北西の地域で採取された土壌を対象に,放射性粒子の分離を行った。分離された粒子は,100マイクロメートルを超える大きさであり,球形ではなく歪なものが多い。こうした粒子の形態的特徴は,研究代表者らが先行研究中で報告した事故直後につくばで捕集された放射性大気粉塵,通称「セシウムボール(直径2マイクロメートル前後の球形粒子)」とは明らかに異なるものである。SPring-8における蛍光X線分析の結果,これらの粒子はCsよりもBaを多く含み,またセシウムボールでは検出されていないSrを含むなど,化学組成に明らかな違いが見られた。また,蛍光X線イメージングにより元素分布が均一でないことが明らかとなり,特にFeやMo,Uなどは数マイクロメートルの微小領域に濃集していた。X線吸収端近傍構造解析およびX線回折により,この粒子のバルク部分はセシウムボールと同様のガラス状物質であったが,先述の濃集点には何らかの結晶相が存在していることが明らかとなった。以上のように,2号機由来とされるセシウムボールと今回分析した1号機由来とされる粒子では,明らかな化学的性状の違いが見られた。この性状の違いは,その生成・放出過程の違いを強く反映しているものと考えられ,事故当時に1号機と2号機が異なる炉内状況にあったことを化学的に実証するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1号機と2号機で異なる性状を持つ放射性物質が飛散していた可能性など,当初の予想を上回る重要な知見が得られており,研究自体は大幅に進展していると考えている。しかしながらその一方で,SPring-8での放射光マイクロビーム蛍光X線分析による化学組成分析においては,各元素の濃度を求める定量法の開発が課題の一つとして挙げられていた。今年度はこの課題を解決するために,濃度既知のガラスを合成し,標準物質として用いた検量線の構築を試みた。その結果,セシウムボールに含まれる主要な重元素に関して,検量線を作成することはできたが,直径数マイクロメートルという微小領域においては,試料厚による強度変化を散乱X線強度による規格化のみでは補正しきれないことが明らかとなった。よって,蛍光X線分析から元素間の濃度比を定量的に求めることはできるものの,濃度の絶対値を求めるにはさらなる検討が必要であると考えられる。また,当初の目的の一つとして,SPring-8での放射光X線分析における軽元素の分析を挙げ,そのために真空(またはHe置換)チャンバをビームライン内に設置することを想定していた。しかしながら,SPring-8側からの指摘により,分析試料である放射性粒子が測定中に落下・紛失する可能性を防ぐために,試料ホルダごと高分子フィルム等で覆うという対策を取ることとなった。このフィルムによるX線の吸収の影響がある以上,軽元素の検出には限界があるため,軽元素の分析・定量に関しては低真空の電子顕微鏡によるX線分析を利用する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度も新たに採取予定の土壌粒子や,事故直後に捕集された大気粉塵を対象として,放射性粒子の放射光X線分析を継続する。その中で定量化に関する検討を進め,試料厚による強度変化を正しく補正する方法などを開発する。また,現時点で対象としている放射性粒子は非水溶性のものが中心的であるが,より環境への影響度の高い水溶性の放射性粒子に関しても探索・分析を進める。特に塩化物など,核燃料と海水との反応で生じた可能性がある揮発性の化合物に関して,事故直後の大気粉塵から分離を目指す。 もう一つの大きな方針として,放射性粒子の分離作業の高効率化,さらには汚染土壌問題の解決等を視野に,放射性物質のバルクからの分離法の開発を検討する。特に比重や帯電といった粒子の物理的性状に関して測定を行い,そこから効率的な放射性粒子の分離・回収方法を発案する。
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Research Products
(7 results)