2015 Fiscal Year Annual Research Report
気液2相型Ar光検出器の開発と高感度化
Publicly Offered Research
Project Area | Revealing the history of the universe with underground particle and nuclear research |
Project/Area Number |
15H01038
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
寄田 浩平 早稲田大学, 理工学術院, 准教授 (60530590)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 暗黒物質 / アルゴン / 気液2相 / 真空紫外光 / 極低温 / 高電圧 / VUV-MPPC(SiPM) |
Outline of Annual Research Achievements |
WIMP質量~10GeV/c2、断面積~10-41cm2領域のWIMP探索を可能にする「高感度2相型Ar光検出器」の開発・構築を行う。具体的には、世界最高検出光量と低エネルギー閾値付近で十分なγ線除去力をもつ検出器(有効質量30kg)を設計・製作し、構内にて段階的に実装し、今後の地下実験に向けての問題点の洗出しや改善を行うことが本研究の主目的である。波長変換材TPBの蒸着量や方法の最適化、高QE-PMTの導入、また窒素不純物量を抑えるためのPURERON製窒素フィルターを導入した結果、2相型で7.3pes/KeVeeという世界最高レベルの検出光量を達成することができた。また、128nmのAr蛍光に直接感度をもつMPPC開発を浜松ホトニクス社と協力して進めた結果、クロストーク抑制型の3x3mm 100μmピッチのVUV-MPPCは、VUV光(128nm)に対して12%のPDEを持つことを確認、その結果を学術論文にまとめた。さらにVUV-MPPCをプロトタイプ検出器(~500g)に導入し、実験の肝となる壁際の発光位置分解能改善に有益なことも示すことができた。一方、これまでの75Lの試験用真空容器を本実験用の200L真空断熱容器に増強し、液化・ガス循環・純度維持などの基礎性能が十分であることを確認した。本実験検出器(有効質量30kg)に向けての箱が整ったことになる。また、低エネルギー領域(20keV以下)でのγ線除去力を評価するため、GEANT4をベースにしたシミュレーションを構築した。まだS2発光量の電場依存性に課題が残るものの、S1の波形や光量の再現に一定の目処をつけることができた。新しい光素子も実装したこの高感度検出器によってArを用いた実験で世界初の10GeV/c2 WIMP探索を行う基盤を築くことができたといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本実験に向けての検出器設計・製作、VUV-MPPCの開発、シミュレーションの確立による背景事象評価など、おおよそ予定通り達成できている。とくにVUV-MPPCの試作品を用いて、液体Ar温度(-186℃)でAr蛍光(128nm)を世界で初めて観測し、国際会議や論文で公表できたことは学術的にも価値が高い。一方で、液体シンチレータを用いた環境中性子測定とUnfolding法による環境中性子自体のエネルギースペクトル算出、またU/Th系列の放射線同位体測定や部材スクリーニングなど、地下実験に向けての準備も着々と進めた。3インチPMT(高QE極低温仕様)を上下3本ずつ、VUV-MPPCを気相側面に90度おきに4つ配置し、57Coや252Cf等の線源データを取得し、本検出器設計のためのシミュレーション構築を行った。GEANT4で実装されるトラック毎のエネルギーによって、Doke-BirksとTIBモデルを使い分け、Fast/Slowや電離電子の再結合などの発光機構をモデル化し、実データと比較することで較正した。また、ドリフト電場は200,500,1000V/cmの3点で取得し、電場依存性についても再現を試みたが、1000V/cmデータだけ大きくずれた。これはドリフト電場と取り出し電場(液体→気体)の染み出しの影響を考慮していないことに起因すると考えている。現在、さらなるチューニングを進めるとともに、上下PMTとVUV-MPPCを統合させた発光位置決定精度の向上を試みている。本検出器は合計で20数本のPMTと100以上のMPPCの実装を予定している。250Ms/s 14bit FADCをベースに、MPPC用にはEASIROCモジュールによる電荷取得など、読出しエレクトロニクスの増強も始める。まずは39Arからのβ線に対する除去能力を評価し、探索感度予想を算出することが重要な状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
H28年度は、H27年度の実証成果とシミュレーション設計の精度を高め、本実験検出器の構築を本格化する。電場成形やガス循環システムなどのハードウェア技術の課題はすでにクリアーしている。VUV-MPPCに関しては、ピクセルピッチが100μmのものがPDE12%なっており、本実験で使用するのは比較的低いが、浜松ホトニクス社との協議により、さらにFill Factorを向上させることで20%近いPDEが実現できると期待している。一方、最終的に最も大きな背景事象となる放射線同位体39Arからのβ線(Bq/kg)事象を完全に除去するべく、S1波形解析(PSD)とS1/S2比のパラメータチューニングを行う(ドリフト電場、気相取出電場等の設定値の最適化を含む)。環境中性子の定量的理解と遮蔽力をGEANT等を用いて見積もり、地下実験(神岡地下施設)に向けた検討を行う。部材中の内部放射線源のさらなる特定をするべく発光位置同定方法を確立し、実機実証する。部材からのα線はエネルギーカット(~MeV領域の)と発光位置分布(壁際発光)で除去するが、必要であれば材質の極低background化も積極的に行っていく。最終的に有効質量30kg×20日程度の地上実験データで、できるだけ低エネルギー閾値(最終的には~20keVnrが目標だが地上では不可能)で暗黒物質探索を行い、学術論文に纏める。一方で、地下実験を想定した物理感度を算出し、本研究以降のさらなる展開につなげる。
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Research Products
(21 results)