2015 Fiscal Year Annual Research Report
Ta系酸窒化物強誘電体の活性サイトとしてのTaO4N2八面体の構造解明
Publicly Offered Research
Project Area | 3D Active-Site Science |
Project/Area Number |
15H01043
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
廣瀬 靖 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (50399557)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 複合アニオン酸化物 / 酸窒化物 / エピタキシー / 光電変換 |
Outline of Annual Research Achievements |
ペロブスカイト型酸窒化物SrTaO2Nは正方晶歪みを印可したエピタキシャル薄膜において強誘電性を示すが、その起源は未解明である。本研究では、活性ユニットであるTaO4N2八面体のアニオン配列の変化(二軸圧縮歪の導入による準安定なtrans型配列の生成)と強誘電性の関係を実験的に明らかにすることをめざしている。
SrTaO2Nの強誘電性はSrTiO3基板上に成長した薄膜で発見されたが、典型的な強誘電体として振る舞うのは試料中の微小領域(面積比で数%程度)に限られていた。これは、SrTiO3とSrTaO2Nの格子定数のミスマッチ(-3%)が大きすぎるために転移が導入され、強誘電性のtrans型配列の安定化に重要な正方晶歪みが解消してしまうことが原因であると考えた。そこで本年度は、(1)A サイトのSr2+の一部をイオン半径の小さなCa2+に置換して基板との格子ミスマッチを最適化し、より大きな正方晶歪みを加えることでtrans型配列の安定化を試みた。その結果、従来の約2.5倍の正方晶歪みをもつSr0.5Ca0.5TaO2N薄膜の合成に成功した。この薄膜について直線偏光X線吸収微細構造(XAFS)測定を行ったところ、OとNでアニオンサイト(axial/equatorial)の占有率に偏りがあることが確認された。これは、TaO4N2八面体中のアニオン配列が正方晶歪みによって変化したことを強く示唆する。
また、(2)SrTiO3基板上に作成したSrTaO2N薄膜に対してXAFS顕微鏡(SPring-8 BL-17SU)を用いたX線線二色性マッピング測定を行い、強誘電相のアニオンサイト占有率を選択的に観察することを試みた。明瞭な線二色性像のコントラストを観察することはできなかったが、高輝度の集光X線による表面コンタミや集光スポットのドリフトによるS/Nの低下などの解決すべき技術的な課題が明確になった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
試料の合成については順調に進んでいる。具体的には、SrTaO2NのA サイトの一部をイオン半径の小さなCa2+に置換して基板との格子ミスマッチを最適化することで、従来よりもはるかに大きな正方晶歪み(c軸長/a軸長~1.05)を有するSr0.5Ca0.5TaO2N薄膜をSrTiO3基板上に合成することに成功した。また、この薄膜が空間的に一様に強誘電体的な応答を示すことも圧電応答顕微鏡によって確認できた。
一方で、アニオン配列の評価に関しては、計画していた光電子ホログラフィー/回折実験のビームタイムを得ることができなかった。しかし、直線偏光X線吸収微細構造(XAFS)の線二色性を利用してアニオンサイトの占有率を評価する解析法を新たに着想し、正方晶歪みの増大に伴う(Ca,Sr)TaO2Nのスペクトル形状(=アニオン配列)の変化を検出することに成功した。H28年度により詳細な解析を行い、直線偏光XAFSによる酸窒化物薄膜のアニオン配列評価の有用性を検証する。
アニオン配列の評価に関する新たな展開として、XAFS顕微鏡を用いた線二色性測定にも取り組んだ。鮮明な線二色性像の取得には至っていないが、測定中の表面コンタミやビームドリフトといった解決すべき技術的な課題を明らかにすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
第一に、H27年度に測定した直線偏光XAFSのデータ解析を進め、アニオンサイトの占有率の偏りがtrans型配列の増加によるものであるか検証する。スペクトル形状の解析は第一原理計算なども援用しながら進める。これにより、SrTaO2Nの強誘電性とアニオン配列の関係を明らかにする。
第二に、複合アニオン酸化物薄膜におけるアニオン配列の評価法の確立を目指し、光電子ホログラフィー/回折や直線偏光XAFS測定の有効性を検証する。従来の測定では、SrTaO2N薄膜のアニオン配列が未知であったため、測定結果の検証が困難であった。
そこで、上述のSr0.5Ca0.5TaO2N薄膜を参照試料として用い、それぞれの手法でアニオン配列を評価する。また、バルク粉末試料の研究からアニオンの自発的な長距離秩序配列が報告されているK2NiF4型結晶構造の酸窒化物(Sr2TaO3N:Nがequatorialサイトのみを占有、Nd2AlO3N:Nがaxialサイトのみを占有)についても標準試料として検討する。薄膜の合成には窒素プラズマ支援PLD 法を用いる。XRD によりエピタキシャル成長を確認し、SEM-EDS により化学組成を評価する。合成した薄膜の光電子ホログラフィー・光電子回折測定を行い、アニオン配列評価法としての有効性を検証する。実験はSPring-8の光電子ホログラフィー測定装置を用いて行い、得られたパターンからOとNのサイト分布(axial/equatorial)を評価する。
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Research Products
(2 results)