2015 Fiscal Year Annual Research Report
葉緑体レトログレードシグナルによる細胞壁制御
Publicly Offered Research
Project Area | Plant cell wall as information-processing system |
Project/Area Number |
15H01236
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Research Institution | Kyoto Prefectural University |
Principal Investigator |
椎名 隆 京都府立大学, 生命環境科学研究科(系), 教授 (10206039)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ミトコンドリア / Ca2+ / レトログレードシグナル / 細胞壁 |
Outline of Annual Research Achievements |
生物的ストレスや非生物的ストレスへの応答遺伝子群を比較すると、多くのストレス応答において、成長に関わる遺伝子群の発現抑制と防御遺伝子の活性化が見られる。これを「成長と防御のトレードオフ」と呼ぶ。このトレードオフ制御では多くの細胞壁遺伝子の発現が変動し、細胞壁合成に関わるセルロース合成酵素遺伝子の発現が誘導される一方、細胞伸長に関わるエクスパンシンや、ペクチンリアーゼの発現は抑制される。これらの細胞壁遺伝子の発現パターンの変化は、ストレス応答時の細胞壁の再構成に重要な役割を果たしていると考えられる。一方、葉緑体に局在するCa2+結合タンパク質CASが、病原体分子パターン(PAMP)が誘導する細胞壁制御遺伝子の発現抑制に関係することを以前明らかにしている。したがって、葉緑体が発信するレトログレードシグナルが細胞壁遺伝子の発現制御に関係する可能性が考えられる。そこで本研究では、細胞壁制御遺伝子の発現制御における葉緑体レトログレードシグナルの役割の解明を目的に研究を進めた。 まず、トランスクリプトーム解析から、光合成及び呼吸における電子伝達を阻害するDBMIBが、エクスパンシンなどの細胞壁制御遺伝子の発現に影響することを明らかにした。また、DBMIB応答が葉緑体の存在しない根や暗所でも見られることから、ミトコンドリアが発するレトログレードシグナルの関与が考えられた。一方、DBMIBに応答して、暗所で細胞質ゾルのCa2+濃度上昇が見られることから、ミトコンドリアによる細胞質ゾルのCa2+動態制御がレトログレードシグナルとして働いている可能性が示唆された。さらに、接触刺激に対しても、同様な細胞質Ca2+濃度の上昇と細胞壁制御遺伝子の発現抑制が見られることから、接触刺激応答におけるミトコンドリアレトログレードシグナルの関与が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1 RNA-seqによる網羅的遺伝子発現解析から、葉緑体及びミトコンドリアの電子伝達阻害剤であるDBMIBが、防御関係遺伝子の発現を直接誘導するとともに、エクスパンシンなどの細胞壁制御関係遺伝子の発現を抑制することを見出した。また、DBMIB処理は、細胞質ゾルCa2+濃度の一過的上昇を引き起こし、逆に細胞内Ca2+濃度を人為的上昇させた場合、エクスパンシン遺伝子の発現抑制が起こることがわかった。これらの結果から、葉緑体またはミトコンドリアの電子伝達阻害が細胞質Ca2+濃度の上昇を引き起こし、その結果、細胞壁制御遺伝子の発現抑制などのトレードオフ制御が起こる可能性が示された。 2 さらに、弱い接触刺激に対して、DBMIB処理への応答とよく似た遺伝子発現応答が生じることを見出した。また、接触刺激への遺伝子発現応答に先立って、細胞質 ゾルのCa2+濃度の一過的上昇が起こることも明らかにした。 3 DBMIBおよび接触刺激が誘導する細胞質Ca2+濃度の上昇が、細胞外からのCa2+流入に依存しないことから、このCa2+動員は細胞外からのCa2+流入を必要とせず、色素体またはミトコンドリアからのCa2+放出が関わる可能性を示した。さらに、DBMIBによる細胞質Ca2+濃度の上昇と遺伝子発現応答が、根でも見られること、明所でも暗所でも同様な応答が見られることから、細胞壁制御遺伝子の発現制御に、Ca2+を介したミトコンドリアレトログレードシグナルが関与する可能性が強まった。 4 ミトコンドリア内膜にバクテリア型の機械受容チャネルMSL1が局在することを確認した。また、ミトコンドリア内膜のCa2+チャネルMCUがミトコンドリアに局在することを示すとともに、MCUの制御因子MICUがミトコンドリア内膜に存在することを生化学的に確認した。
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Strategy for Future Research Activity |
ストレスによる「成長と防御のトレードオフ」制御時に見られる、エクスパンシンなどの細胞壁制御遺伝子の発現抑制に、ミトコンドリア由来のレトログレードシグナルが関係することを明らかにするとともに、そのレトログレードシグナルの実態を解明する。また、機械刺激受容やDBMIB応答にミトコンドリア局在の機械受容チャネルMSL1やCa2+輸送制御因子MICU1が関係する可能性を検証する。さらに、葉緑体局在のCa2+結合タンパク質CASの根の成長制御における役割についての研究も進める。そのために、平成28年度は以下の研究を進める。 1 細胞壁制御遺伝子の発現制御がミトコンドリアによるレトログレード制御を受けていることを明らかにするために、暗所や根での遺伝子発現の接触刺激応答やDBMIB応答をさらに詳細に解析する。 2 ミトコンドリア由来のレトログレードシグナルとして、ミトコンドリアを介した細胞質ゾルのCa2+動態制御と、ミトコンドリア由来の活性酸素種(ROS)の関与が考えられる。Ca2+動態の詳細な解析、ROSのイメージングなどの解析を通して、両者の可能性を検証する。また、Ca2+シグナリングとROSシグナリングのクロストークの可能性も含めて検討を進める。 3 作成済みのMSL1およびMICU1のノックダウン(アウト)変異体や過剰発現体を用い、細胞壁制御遺伝子発現の制御への関与を解析し、ミトコンドリアCa2+輸送がレトログレードシグナルの発生に関係している可能性を探る。さらに、サリチル酸がミトコンドリア膜電位の低下を引き起こすことを見出している。ミトコンドリアのサリチル酸応答にMSL1やMICU1が関わる可能性についても検討する。 4 CASは光によってリン酸化されることが知られている。リン酸化部位を変異させた変異体を作成し、CASのリン酸化とレトログレードシグナルとの関係を詳細に検討する。
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Research Products
(12 results)