2015 Fiscal Year Annual Research Report
インフルエンザウイルスvRNP複合体の転写・複製スイッチング機構の解明
Publicly Offered Research
Project Area | Molecular basis of host cell competency in virus infection |
Project/Area Number |
15H01260
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
岩崎 憲治 大阪大学, たんぱく質研究所, 准教授 (20342751)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 電子顕微鏡 / 単粒子解析 / インフルエンザ |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度、連携研究者の筑波大・川口敦史博士から提供されたヒトインフルエンザA型ウイルスからのRNA依存性RNAポリメラーゼを用いて、転写反応を起こさせ、これについてネガティブ染色法を用いて電子顕微鏡画像取得を行い、2Dハイブリッド解析によりその構造予測に挑んだ。RNA依存性RNAポリメラーゼを含む溶液にNTP(ATP、UTP、GTP、CTP)及びプライマーとしてApGを加えることで転写反応を起こさせた。ネガティブ染色を施した後は、分子がカーボン膜上に固定されるため、反応は停止すると考えられるが、染色操作自体が分のオーダーで時間がかかるため、観察試料はポリメラーゼ反応が終了したものと考えられる。この画像から単粒子解析で得られた2次元クラス画像と既報告のコウモリインフルエンザウイルスA型のRNA依存性RNAポリメラーゼ結晶構造を使って2Dハイブリッド解析を行った。つまり、2次元クラス平均画像に合致するような原子モデルを結晶構造を変形させて作製した構造ライブラリから選出した。本解析は、原子力機構の松本淳博士(現 量子科学技術研究開発機構)に行って頂いた。その過程で、染色剤を考慮したシミュレーションが試され、解析精度の改善が確認された。また、構造変形は3つの基準振動モード方向への変形を足し合わせることにより実現しているのであるが、それぞれのモード方向への変形の大きさを座標として、選出された変形構造をプロットすると、おおよそ3つのクラスターに分かれることがわかった。このことは、RNA依存性RNAポリメラーゼのコンフォメーションが、ナノメートルオーダーの解像度ではこのようなグループに分かれて存在していることを示唆している。いずれも、PB2のキャップ結合ドメインが顕著に動いていており、Cusakらが提唱しているキャップスナッチング機構と矛盾がないものと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初研究計画は、vRNPを使用した4つの実験から構成されていたが、vRNPからNPを取り除いたRNAポリメラーゼを使用した電子顕微鏡による構造解析に集中することにした。理由は、昨年度秋に連携研究者の川口敦史博士がNPを取り除いた高品質のRNA依存性RNAポリメラーゼ精製に成功したこと、NPが存在しないRNA依存性RNAポリメラーゼの高分解能構造が相次いで報告され、その転写及び複製機構について様々なモデルが提唱されてきたことにある。その構造解析には連携研究者の松本淳博士が主として、申請者と共に開発した2Dハイブリッド解析法を用いることにした。これは、3次元構造解析を目標にすると、コンフォメーション変化が予測されていたので、時間と労力が非常にかかることが懸念されたからである。一方、2Dハイブリッド解析法ならば、決定的な解ではなくとも、その転写・複製機構を説明するためのコンフォメーション変化を議論できるような結果が得られると考え、実験を計画した。ApGプライマーを用いて転写反応活性を誘起させて電子顕微鏡画像を撮影し、2Dハイブリッド解析を行い、発現系ではなくヒトインフルエンザから直接精製された活性の高いRNA依存性RNAポリメラーゼにおいて現在提唱されているようなキャップスナッチング機構が予測できるかどうかを検証することが目標だった。その目標は概ね達成できたと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、以下の2実験を柱に研究推進をこれまで同様、インフルエンザRNAポリメラーゼの専門家である、筑波大学・川口敦史博士と2Dハイブリッド解析法の開発者である量子科学技術研究開発機構・松本淳博士の両名を連携研究者として推進する。1.2Dハイブリッド解析法によるインフルエンザRNAポリメラーゼ全体構造の解明.(1)精製RNAポリメラーゼのみ(2)RNAポリメラーゼ+NTP(ATP,UTP, CTP,GTP)+ApG(3)RNAポリメラーゼ+NTPからUTPを除いたもの+ApGの3種類についてモデリングを試みる。(1)は、転写開始前の状態、(2)は転写反応終了後の状態、(3)は転写反応途中を含む状態として、それぞれにおいて電顕イメージングを行う。特に(3)では、様々なコンフォメーションを含むことが予測されるため解析に困難が予測されるが、活性状態を探る上でキーとなる構造が得られる可能性が高い。このことも考慮し、2Dハイブリッド解析法を主としてその構造を探る。コンフォメーションが異なる構造が入り交じった試料の3D構造を解析するよりも、時間的にも有利であり、決定的な結果が得られなくとも現在提唱されているような構造変化の検証は十分にできる。2.インフルエンザRNAポリメラーゼ全体構造の3D構造解析.最終的にインフルエンザRNAポリメラーゼの3D全体構造を1で述べた三条件について求める。挑戦的ではあるが、研究計画1の2Dハイブリッド解析で求めた構造情報を有効に使用することで解析を試みる。具体的には、単粒子再構成における初期構造の構築があげられる。また、RELIONのように最近では構造の異なる分子が入り交じった状態を考慮した単粒子再構成用プログラムがあり、これらの使用を試みることで、2Dよりもより正確に転写反応機構を探る。
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