2015 Fiscal Year Annual Research Report
べん毛を持たずに高速遊泳運動をするバクテリア
Publicly Offered Research
Project Area | Harmonized supramolecular machinery for motility and its diversity |
Project/Area Number |
15H01329
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
中根 大介 学習院大学, 理学部, 助教 (40708997)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | シアノバクテリア / シネココッカス / 生体運動 / 光学顕微鏡 / らせん / 波の伝搬 |
Outline of Annual Research Achievements |
海水中に生息するシネココッカスやその近縁種は,1 μmの球状の形態をとっているのみで,表面にはべん毛・線毛などといった運動器官は見つからず,ゲノム上にもそれらの遺伝子は見つからない。にも関わらず,20 μm/sもの速さで海水中を高速で泳ぎ回り,自由自在に方向転換を行うことが知られている。本研究では,これまでのシネココッカス委の遊泳運動の研究では,ほとんどアプローチされたことのない,光学顕微鏡下での高時空間分解能の計測,高速原子間力顕微鏡など,最先端の可視化技術を駆使して,時間・大きさ・力などのパラメーターを測定し,30年間 謎に包まれたままの運動メカニズムを明らかにする。計測に基づいた運動モデルの提案のみならず,この生体運動が自然環境下でどのような役割・意義を持つのか,生物物理学と微生物生態学を融合させた新しいアプローチでこの謎に迫る。 申請者は,これまでに電子顕微鏡と光学顕微鏡の結果から,以下のモデルを提案した。これらの結果からシネココッカスの運動のメカニズムは以下のようなものだと考えられる。細胞の膜表面には,SwmBからなる200 nm程度の繊維状構造が生えており,運動時の推進力を生み出している。SwmBは膜表面を高速で動き回り,その速さは60 μm/sにも達する。この際,発生した推進力は,細胞を軸方向に沿って回転させるような力を生み出しており,そのトルクは300 pN nmにも達する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
運動に関わる構造や動きを検出できているものの,バクテリア生育速度が非常に遅いこと,運動に適した環境が海水であるため,これまで申請者の得意としていた方法が使用できない,または大きく実験方法を検討する必要があった。 1.シネコシスティスの細胞表面には,特運動に関連する構造物が何も見つからないと思われていた。しかし,膜表面のS-layerを維持するためにCa2+存在下で注意深く観察をすると,長さ200 nm,細さ5 nmの繊維状構造が1細胞当たり,十数本ほど観察できた。運動の変異株では,この構造が見られないこと,繊維構造の局在がまだらであることから,この構成タンパク質は運動関連タンパク質SwmBである可能性が高い。2.細胞の膜表面での動きを検出するために,200 nmの微小な蛍光標識ポリスチレンビーズを細胞に付着させた。様々な条件検討の結果,サルフェイトビーズを用いると膜表面の動きを検出することに成功した。ただし,このとき,シネコシスティスの培地は海水を使用しているので,ビーズをそのまま希釈するとほとんどが凝集する。そこで,BSAであらかじめブロッキングをしておくと,凝集が抑えられて効率的にビーズを膜表面に結合させることができた。さらに,メチルセルロースを加えて粘性を上げた。これは通常なら3次元的に遊泳運動する細胞をガラス表面でとどまらせるための工夫である。このような特殊な条件にすることで,微小ビーズが膜表面を動き回る様子を観察することに成功した。3.細胞の膜表面で,タンパク質やその複合体がどのように動いているのかを考えるために,ガラス表面にくっついた細胞の動きを観察した。ガラス表面を親水化処理すると,スピンをする細胞の回転方向に偏りが出た。90%以上の細胞が時計回りであり,回転数も以前の5倍ほどであった。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は,細胞表面の微小な動きの検出と,具体的な運動モデルの提案という点に焦点を当てる。細胞膜表面の規則的な動きは,微小ビーズを付着させることによって,検出に成功している。ビーズの動きは細胞の長軸方向に沿って動いているように見えたが,その詳細な動きの規則性を見出すことはできなかった。これは,細胞がガラス表面に留まっているので,膜表面を動くビーズがガラス表面に接触してしまい,規則性などが見つかりにくい条件になっていると考えられる。実際,ビーズの動く速さは,個体によってかなりのバラつきがあり,平均では10 μm/sであるが,瞬間的な最高速度は60 μm/sに達するものもあった。今後はプローブの検討や,高速AFMなどを使用し,プローブを使わずに表面の動きを検出することを試みる。私たちや他のグループが以前に提案したHelical trackというモデルで説明することが可能かどうかを検証する。
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Research Products
(11 results)