2015 Fiscal Year Annual Research Report
弱視とその回復に伴う視覚系神経回路の再編
Publicly Offered Research
Project Area | Mechanisms underlying the functional shift of brain neural circuitry for behavioral adaptation |
Project/Area Number |
15H01440
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
畠 義郎 鳥取大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (40212146)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 弱視 / 神経回路 / リハビリテーション |
Outline of Annual Research Achievements |
発達期の哺乳類に片眼視覚遮断を施すと、大脳皮質一次視覚野のニューロンが遮蔽眼への反応性を失うという機能変化に加えて、遮蔽した眼の情報を視床から皮質へ運ぶ入力軸索の退縮や投射領域(眼優位コラム)の縮小などの回路変化が生じることが、ネコや霊長類を用いた研究により明らかとなっている。 近年、げっ歯類を用いた弱視研究が急速に進展し、暗所飼育などいくつかの方法による弱視眼視力の回復が報告されているが、その神経回路メカニズムは不明である。また、ヒトやサル、ネコなど高等哺乳類では、弱視が上記のような大規模な神経回路再編を伴うのに対して、げっ歯類では回路再編は顕著ではない。したがって、ヒトの弱視やその回復の理解には、高等哺乳類での神経回路レベルのメカニズムを明らかにする必要がある。 そこで、ネコを用いて暗所飼育による弱視回復効果を検討する。発達期に一時的な片眼遮蔽を施し、これを弱視モデルとする。このモデルを用いて、成熟後に暗所飼育を行なった後に、皮質ニューロンの眼優位性と視床からの入力軸索の形態を生理学的、形態学的に評価し、暗所飼育による弱視回復が皮質機能と神経回路の完全な回復であるのか、あるいは限界があるのかを明らかにしたい。 本研究により弱視回復の神経回路レベルでの理解が大きく進み、将来の臨床応用の基盤的知見を提供できると期待できる。さらに、暗所飼育により成熟後の大脳皮質神経回路の再編を誘導できるならば、弱視治療への応用だけではなく、脳の他領域の発達障害や老年期障害など可塑性不全が原因と考えられる疾患の理解や治療への一助となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず、暗所飼育による皮質機能の生理学的回復について調べた。発達期中の6日間の片眼遮蔽により、大脳皮質視覚野ニューロンはそのほとんどが遮蔽眼への反応性を失った。その後開眼し両眼環境で飼育したところ、元遮蔽眼への刺激に対する反応性は若干回復したものの、正常動物と比較すると、それぞれの眼への反応性は健常眼側に偏ったままであった。それに対して暗所飼育を施した動物では、両眼への反応性がほぼ等しくなり、正常動物と同等であった。しかし、個々のニューロンについて両眼反応性を比較すると、暗所飼育群では単眼反応を示すニューロンが多かった。このことは、暗所飼育により元遮蔽眼への反応性は回復したものの、両眼入力の統合機能については回復が不十分であることを示唆している。 視床から視覚野への入力軸索の形態を解析したところ、まだ解析数は十分でないものの、元遮蔽眼の情報を運ぶ軸索が、健常眼のものに比べて長さが短く、分岐数が少ない傾向が観察された。したがって神経回路レベルの回復は十分でないと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はまず入力軸索の形態についてさらに解析を進め、どの程度の回復が見られるのかあるいは全く回復が見られないのかといった点を明らかにする。次に、遮蔽眼からの入力軸索の回復が十分でないのに視覚野ニューロンの反応が回復する原因として、入力軸索上のシナプスが増加した可能性を検討する。そのため、軸索の形態とシナプス部分を同時に標識する手法を開発する。この方法により、機能回復に伴うシナプス分布の変化を明らかにしたい。
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Research Products
(5 results)