2015 Fiscal Year Annual Research Report
Aβオリゴマーによるシナプス機能変性過程の解明
Publicly Offered Research
Project Area | Prevention of brain protein aging and dementia |
Project/Area Number |
15H01556
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
田中 洋光 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (30705447)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 神経科学 / 細胞生物学 / シナプス可塑性 / 海馬長期増強現象 / アミロイドベータ / AMPA型グルタミン酸受容体 / 全反射顕微鏡 / エキソサイトーシス |
Outline of Annual Research Achievements |
アルツハイマー病では、その発症原因分子であるアミロイドベータ (Aβ) のオリゴマーが、シナプス伝達の抑圧やシナプス可塑性の発現抑制を引き起こし、記憶・学習障害に関わると示唆されている。しかしながら、アルツハイマー病発症前から初期にかけて、Aβオリゴマーがどのようにシナプス伝達機能やシナプス可塑性を障害するのかは、未だ明らかでない。そこで本研究は、最近構築した新可視化実験系に電気生理学的手法と1分子解析法を組み合わせて、どのような性状のAβオリゴマーがシナプスのどこに作用して、シナプス機能を変性させるのかという一連の過程を明らかにすることを目的とする。
平成27年度では、記憶・学習の細胞基盤と考えられている海馬の長期増強現象 (LTP: long-term potentiation) というシナプス可塑性に着目し、そのLTP発現に際して神経伝達物質受容体がAβオリゴマーによってどのような動態異常が引き起こされるのかを研究した。具体的には、中枢神経内の興奮性シナプス伝達を主に担うAMPA型グルタミン酸受容体 (AMPA受容体) の動態を観察した。そして、ある特定のサブユニット (GluA1) を含むAMPA受容体のエキソサイトーシスが、Aβオリゴマーによって主に阻害されることを明らかにした。これにより、LTP発現の抑制メカニズムの一端が明らかとなり、アルツハイマー病の早期病態解明が進んだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、ラット海馬神経細胞を実験モデルとし、全反射顕微鏡を用いた独自の可視化実験系で、以下の4項目を研究する計画である。①Aβオリゴマーの性状分離、②Aβ投与前後でのグルタミン酸受容体の動態変化解析、③細胞内または細胞外のAβによるシナプス小胞放出過程への作用解析、④シナプス後膜と前終末におけるAβ毒性作用の統合的把握である。
平成27年度では、主に研究項目①と②を実施した。①では、遠心フィルターを用いて、実験用に調製したAβオリゴマーからの性状分離を一部することに成功した。また②では、シナプス可塑性の代表例である海馬長期増強 (LTP: long-term potentiation) とAMPA型グルタミン酸受容体 (AMPA受容体) に着目して、LTP発現時におけるAMPA受容体のエキソサイトーシスをライブイメージングした。その結果、GluA1サブユニットを含むAMAP受容体のエキソサイトーシスが、Aβオリゴマーによって阻害され、LTP発現が抑制されることが示唆された。以上の結果より、計画は概ね順調に進展していると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度では、主に研究項目③と④を実施する。③では、①で作成したAβオリゴマーを灌流投与して、シナプス小胞の放出がどのように変化するのかを明らかにする。具体的には、Synapotophysin、Synaptobrevin、Synaptotagminなどの小胞関連タンパク質を、細胞膜表面発現時にのみ緑色蛍光を発するSEP (super-ecliptic pHluorin) で標識する。そして蛍光観察によって、Aβ投与後の小胞放出の頻度変化を明らかにする。また④では、②と③における結果の統合的把握のために、必要によってはライブイメージングの他に、電気生理学的実験や1分子解析等を行う。これらにより、シナプス病変機構、脳老化の制御機構、及び記憶・学習が成立する基礎過程の解明への貢献を目指す。
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Research Products
(6 results)