2015 Fiscal Year Annual Research Report
NMRを主体としたタンパク質構造推移解析のための複合手法の開発と応用
Publicly Offered Research
Project Area | Novel measurement techniques for visualizing 'live' protein molecules at work |
Project/Area Number |
15H01624
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
齋尾 智英 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (80740802)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | NMR / 常磁性ランタニド / MurD / 細胞壁合成 / 構造変化 / 活性制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
生体内における分子機械として機能するタンパク質,中でもマルチドメインタンパク質は柔軟に立体構造を変化させることによってその活性を制御しているが,その詳細な分子機構については理解が進んでいない.タンパク質のダイナミックな構造変化を総合的・定量的に解析する手法の開発が求められている.本研究では,申請者がこれまでに開発・応用を進めてきた常磁性ランタニドプローブ法を用いた溶液NMR法を主体とした複合的手法によってタンパク質の動的な立体構造変化を詳細かつ迅速に解析する手法の開発に取り組んでいる.常磁性ランタニドイオンを対象タンパク質に結合させることで,イオンを中心として約40A以内という広範囲においてpseudocontact shift (PCS) などの常磁性効果を観測し,そこからタンパク質中の観測核の位置情報を迅速に取得することができる.本研究では3つのドメイン (domain 1-3) から構成される大腸菌の47 kDaタンパク質 MurDをモデルとして用い,ドメイン配向の変化を伴う大きな構造変化,特にdomain 3の配向変化を定量的に捉えることを試みる.まずdomain 2に2点固定ランタニド結合タグCLaNP-5によってランタニドイオンを固定し,domain 3由来のNMR信号からPCSを観測した結果,多数の信号から大きなPCSが観測された.MurDのリガンドであるUMAやATPのアナログを滴定した結果,リガンド結合に起因した大きなPCS変化が観測された.このPCS変化は,リガンドの結合に伴うdomain 3の配向変化を鋭敏に反映している.PCSの詳細な解析により,domain 3は結合するリガンドの種類によって3つの配向状態を取り得ることが明らかになった (Saio et al. 2015 Sci Rep).
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度はモデルタンパク質として3つのドメインから構成される47kDaマルチドメインタンパク質MurDを用いた手法確立を計画していた.ここでは常磁性ランタニドプローブ法,特にPCSから得られる長距離間の定量的な立体構造情報 (空間情報)と,NMR緩和解析から得られる構造変化の速度 (時間情報) や存在比率を基盤に,高速AFMなどの他の手法を組み合わせることによってマルチドメインタンパク質の立体構造変化を空間・時間・存在比率の観点から総合的に解析する手法の確立を目指す.
本年度までにMurDのNMR信号帰属とランタニドタグの付加,PCS解析を行った.MurDはNMRの対象としては高分子量であったため,我々は分割したドメインに対してNMR信号帰属を行い,それらを足がかりに全長MurDのほぼ全ての主鎖NMR信号を帰属した.さらに既知の結晶構造に基づいてCys変異体を設計し、ランタニド結合タグCLaNP-5を2箇所のCysとのジスルフィド結合を介して固定した.3つのドメインのうちドメイン2にランタニドイオンを固定し,PCSの定量解析から磁化率テンソルを決定した.テンソルの決定ののち,ドメイン3からのPCSを観測しながらATP, ADP, UMAなどの各種リガンドの滴定を行ったところ,リガンド結合に誘起されるドメイン3の配向変化をPCSによって検出することに成功した.さらにこれまでのX線結晶解析では明らかにされていなかった中間的な配向状態を発見し,この中間状態がMurDの酵素反応の制御に重要であることを発見した.本研究成果はScientific Reportに発表され (Saio et al. 2015 Sci Rep),日本産業新聞や医療NEWS QLife Proなどでも紹介された.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでのMurDをモデルとして用いた研究によって,常磁性ランタニドプローブ法を用いたNMRによってタンパク質の溶液中での大きな立体構造変化を迅速に,かつ高精度で解析できることが可能になった.今後は立体構造の変化をより詳細に明らかにする手法を確立するため,ダイナミクスに関する情報を取得することを試みる.特にPCSによりシフトした信号の線形解析や緩和解析によって,タンパク質のどのような構造変化 (空間的変化) がどのような速さ (時間的変化) で起こっているのかを明らかにする.これによってリガンド結合・解離に伴うMurDの立体構造の空間・時間・存在比率における変化を総合的にとらえる.このようなNMRを主体とした手法に加え,今後は他の手法を組み合わせることによって多角度からタンパク質の動きを総合的にとらえる複合的な手法の確立を目指す.例えば,ランタニドプローブ法をX線小角散乱や電子スピン共鳴に応用することによって,特に空間的な構造変化の情報を補完することを目指す.上記のアプローチでは平衡状態での観測が前提となるが,タンパク質の動きをより深く理解するためには,一分子に対する連続的な観測が有効である.そこで今後高速AFMを応用を応用し,一連の構造変化を一分子・リアルタイムで観測することを計画している. さらに本年度はMurDにて確立される上記の手法を細胞内の鉄イオン濃度を感知して鉄貯蔵と取り込みに関わるタンパク質の転写を制御するマルチドメインタンパク質IRP-1の構造変化解析にも応用する.結晶構造解析による先行研究から,IRP-1は4つのドメインのうちdomain 1-2がコアとなり,domain 3とdomain 4がリガンドの結合によって大きくその配向を変化させることが明らかになっている.NMRや小角散乱,高速AFMを組み合わせることによってIRP-Iの構造変化の詳細を捉え,IRPによる細胞内鉄濃度の制御メカニズムの解明を目指す.
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Remarks |
本研究成果はScientific Reportに発表され (Saio et al. 2015 Sci Rep),日本産業新聞や医療NEWS QLife Proなどでも紹介された.
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Research Products
(8 results)